ケヤキ(欅)

別名 ツキ
科属 ニレ科ケヤキ属
学名 Zelkova serrata

性状
落葉高木
葉の分類
互生、単葉、広葉、切れ込みなし、鋸歯あり
類似
備考

参考: 葉っぱでおぼえる樹木(柏書房)/日本の樹木(山と渓谷社)/樹に咲く花(山と渓谷社)

樹形


08.10.29品川

樹木解説

普通高さ20-25mになるが、高さ50m、直径5mに達する巨木もある。樹皮は灰褐色で、老木になると麟片状に剥がれる、樹冠は扇を半ば開いたような円形状になる。葉は互生し、長さ2-7cmの卵形または卵状披針形で、質はやや薄い。先は鋭くとがり、ふちには鋭い鋸歯がある。表面はやや光沢がありざらつき、裏面は淡緑色。花は4-5月、雄花は淡黄緑色で小さく本年枝の下部の葉腋に数個ずつ集まってつく。雌花は萼は深く4-6裂し4-6個の雄しべがある。雌花は本年枝の上部の葉腋に1-3個つく。花柱は2裂する。果実は長さ4-5mmの平たいゆがんだ球形で、10月頃暗褐色に熟す。

14.04.19川越

14.04.19川越

14.04.07川口グリーセンター

14.04.07川口グリーセンター

17.12.16小石川植物園

10.04.13上福岡株立ち

10.04.13上福岡

14.04.15新宿御苑

補足


 

けやき

えのき

むくのき

葉縁 縁全体にギザギザが入っている 葉のギサギザが葉の上半分にしかない  縁全体にギザギザが入っている
葉面

表面に毛が多い

裏面に光沢があり、ほとんど毛がない

表面に毛が多くざらついている 

葉脈

側脈がほぼ同じ間隔

三行脈が目立ち、ここから分かれた脈は先が内側に曲がる

基部の側脈からさらに外側に分かれた脈がはっきり見える



     ケヤキ エノキ ムクノキ

小説の木々

「あんた、これ何の樹?」後ろの旦那を振り返って細君は声を張り上げたが、すぐに返事が返ってこなかったので、省三に向かってこう言った。「この樹はねえ、パワーがもらえるんですよ」そして親しげに神木の幹をぽんと叩いた。ゴミ袋を入念にしぼった旦那がようやく顔をあげ、「けやきだよ」と言った。「けやきですって。見えないねえ、けやきに」「大したもんだ」ため息をつくように省三は言って、どっしりしたけやきの幹にそっと手をあてた。百三十年前、曽祖父の畑仕事で荒れた手も、梶木川乙治の無骨な手も、確かに触れたであろうその樹の肌は秋の陽を浴びてあたたかかった。(「末裔」絲山秋子)

秋の光が通りにあふれていた。ケヤキの枝々を通過した陽光が路面にまだらに模様を描いている。すっかり風が幾筋も違う方向から吹いてきて、頬や首すじ、掌やスカートの下の足を撫でる。全身の皮膚が新鮮な空気で呼吸しているのが感じられた。・・・人通りが減ったのもあろうが、やはり日射しが弱まっているせいだろう。強い光に白っぽく飛ばされていた木々の緑が深い色を取り戻していた。(「翼」白石一史)

橋を渡ってからの上り坂は、傾斜がややきつくなるが、自転車でも一と息に漕ぎ上がれないほどではなく、半ばにかかるあたりから、再び道に面して家が並び始める、その取付きの、藁屋根の農家を囲む欅の数本。冬の風が強い日には、鋏で切揃えたように同じ高さまで伸び上がった梢の、拍子を取るように揺れるのが、橋の上から望める。欅があんなに笑っている、と叫んだ子供があったという。揺れる梢が、腹を抱えて笑っているように映ったのであろう。(「この国の空」高井有一)

ところどころ、ごつごつしたけやきの軟体動物の足みたいに見える根っこが地面に露わになっていた。足を傷めないために水溜りでのように弾みをつけて跳んだ。すると長々と伸びた自分の影が地面から離れて浮かびあがる。・・彼はけやき並木を見た。枝葉が歩道の上にかぶさって道は薄暗くトンネルみたいだった。(「きみの鳥はうたえる/草の響き」佐藤泰志)

中庭の真ん中にある、ケヤキの大木を指差した。一本だけそびえ立つケヤキは、新緑の葉っぱを五月の風にかすかに揺らしている。夏には涼しい木陰をつくり、秋には広場の地面を色鮮やかな落ち葉で埋めるのだろう。(「たんぽぽ団地」重松清)

深雪が笑っている。大欅の幹に、小柄なからだをもたせかけて。ほの白い頬に、まだらに葉の影がさしている。黒々と濡れた瞳と、わずかに二重になった小さな白い顎、水蜜桃のようにみずみずしく張った頬。あの時のままだ。・・・何も残っているはずはない。欅は一本残らず切り倒され、滝山川の後背湿地に開けた田んぼは、巨大団地に変わっている。しかし彼は今、確かに遠い路上に青々と繁る欅の葉を、その下で微笑む深雪の姿を見た。(「コミュニティ/ポケットの中の晩餐)」篠田節子)

団地の窓の外は棟の前に植わった欅がのびて、視界の半分をふさいでいる。欅を切り倒したとしても、その向こうにあるのは、くすんだクリーム色に塗られたB棟の北側だ。母の帰宅を待ちながら、熱風がゆらす葉を見つめていた。充がかじりついているテレビの音だけが途切れることなく部屋に満ちている。(「瑠璃の雫」伊岡瞬)

吉祥寺駅の南改札口を出る。大きな通りを二本横断してまっすぐに進む。喫茶店や衣料品店が並ぶ道を抜けると、階段の上に出る。下に緑に覆われた公園が広がっている。正面に大きな欅が四本、幹がYの字になって空高く伸びている。枝先の葉が逆光の中で透き通って輝いている。(「こころ痛んで耐えがたい日に/初秋の公園」上原隆)

遠くから小麦を見るときは、高校の校庭の隅にあった欅の大木を思い出した。初めて会ったときの印象のとおり、腕や足は細くはなくて、厳しい冬を素裸で乗り切る欅のように力強いのだった。(「かけら/欅の部屋」青山七恵)

郊外の学園都市には、苦労や不幸とは無縁の空気があった。駅前のロータリーから南に向かってまっすぐに延びる大通りの左右は老いた桜並木で、ほかにも松や楓や銀杏の緑が溢れていた。しかし、もし僕の見誤りでなければ、武蔵野の樹木の主役である欅が見当たらなかった。おそらく学園通りの桜を美しく咲かせるために、陽光を遮る欅を切ったのだろう。僕の育った養護施設は欅の森の中にあった。頭上に蓋を被せられたように暗鬱で、秋が深まれば降り注ぐ朽葉を、際限ない苦役のように集め続けなければならなかった。だから僕がその町のたたずまいを気に入ったのは、欅の大樹がないせいかもしれなかった。(「おもかげ」浅田次郎)