ハルニレ(春楡)

別名 ニレ、エルム
科属 ニレ科ニレ属
学名 Ulmus davidiana var. japonica

性状
落葉高木
葉の分類
互生、単葉、広葉、切れ込みなし、鋸歯あり
類似
備考

参考: 葉っぱでおぼえる樹木(柏書房)/日本の樹木(山と渓谷社)/樹に咲く花(山と渓谷社)

樹形


14.06.13栃木県日光市

樹木解説

大きいものは35mになる。樹冠はほぼ円形。樹皮は暗灰褐色で、縦に不規則な裂け目がある。葉は互生し、長さ3-12cmの広倒卵形または倒卵状楕円形で、先は急にとがり、基部は左右不揃いのくさび形。ふちには重鋸歯があり、表面は脈がへこみ、ざらざらする。4-5月頃、葉の開く前に、前年枝の葉腋に帯黄緑色の小さな両性花を7-15個束生する。翼果は黄緑色で長さ約1cmの広倒卵形。扁平で膜質の広い翼があり、先端はくぼむ。

14.04.23北大植物園

14.04.23北大植物園

13.05.12新宿御苑

11.05.14新宿御苑

20.03.07新宿御苑

20.03.07新宿御苑

10.12.10新宿御苑

10.12.10新宿御苑

小説の木々

丘の上に、枝葉を逞しくひろげた楡の木(樺太なので分布上ハルニレだと思う)が立っていた。婦長は、梢を見上げるようにするとその樹の下で足をとめ、腰を下ろした。徳子たちは、無言で婦長のまわりに坐った。彼女たちは、頭を垂れたり、淡い星の光の散る夜空を見上げたりしている。時折り北方で炸裂する砲弾の火閃が、樹の梢を明るくさせていた。「一緒に死にましょう」婦長の声に、看護婦たちは眼をあげた。だれからともなく櫛で髪の乱れを直し、同僚の髪にも互いに櫛を当てた。徳子たちには、同僚の顔がひどく美しいものに感じられた。(「総員起シ/手首の記憶」吉村昭)

六月の初め、アカシアの花が咲き乱れるころ、ふみ子は突然外出したいといいだした。その時、石塚は風で熱があったのに、自転車のうしろにふみ子をのせて植物園まで行った。楡の巨木が芝生に濃い影を落とし、リラの花の咲く園内を、石塚はふみ子を自転車の荷台に乗せながら、ゆっくりと押して歩いた。(「冬の花火」渡辺淳一)

札幌に初夏が訪れた。北一条のアカシアは白い花に香りをのせ、リラは家々の垣根ごしに淡い紫色のパステルカラーをのぞかせた。北大や植物園の構内にある楡の巨木は、深い緑をつけ、芝生の上に大きな影を投げかけた。(「雪舞」渡辺淳一)

多美雄が立ち止まった先に、一本の木が生えていた。緑の葉を生い茂らせている。高さは四、五メートルほどのまだ若木に見えたが、永瀬はその名を知らなかった。どことなく欅に似た葉だった。「ハルニレです」多美雄が幹を叩いた。「ニレ」という響きに覚えがあった。「一般的にはただ楡と呼ぶことも多い。葉が似てるから欅と勘違いしている人もいる」(「瑠璃の雫」伊岡瞬)