イチジク(無花果)

別名 トウガキ
科属 クワ科イチジク属
学名 Ficus carica

性状
落葉小高木
葉の分類
互生、単葉、広葉、切れ込みあり、鋸歯あり
類似
備考

参考: 葉っぱでおぼえる樹木(柏書房)/日本の樹木(山と渓谷社)/樹に咲く花(山と渓谷社)

樹形


15.07.14東京都薬用植物園

樹木解説

高さは約4mになる。葉は互生し、大形の卵円形で掌状に3-5浅・中裂する。質は厚く、茎、葉など切ると白い乳液がでる。葉身は20-30cm、各裂片には波状の鋸歯がある。葉の表は緑色で、硬い毛が生えていて触るとざらざらする。6-9月、葉腋に倒卵形で緑色の花のうが1個ずつつく。中には小さな花が多数入っている。雌雄異株。秋になると、雌花のうは長さ約5cmの果のうとなり、暗紫色に熟す。

15.07.14東京都薬用植物園

15.07.14東京都薬用植物園

09.06.19小石川

09.06.13上福岡

09.11.15上福岡

15.06.23花と緑の振興センター

15.06.23花と緑の振興センター

小説の木々

いちじくの木に、花は咲かないのだそうだ。ほんとうかどうか、雛子は知らない。夕食を終え、雛子はいま架空の妹と、いちじくをたべているところだ。・・・架空の妹は疑わしそうな声をだし、「変じゃない?そんなの。だって花が咲かないのに実がなるっていうのは、昔理科で習ったこととむじゅんするよ」と言う。「それがね、この、中身のしゃわしゃわした薄赤い部分が花なんですって」かって、雛子はそう教わった。理科の授業ではなく、最後の恋人だった男に。(「ちょうちんそで」江國香織)

剃髪を終えると庭の無花果を見るのが最近の習慣になっている。これまでひとつも実がならなかった無花果が、今年はどういうわけかいっぱい実って、枝が地面すれすれまで垂れ下がる勢いなのである。ところが、明日はいよいよ喰ってやろうと狙いをつけていると、必ずその翌日の早朝にカラスの大群がギャァギャァとやって来て熟した辺りを喰い尽くす。しかも残った実にも突っつき回したクチバシの痕が痛々しく残っている。仕方なく、ギャァギャァの突っつき回した熟れた部分をオレが喰うことになる。それでも無花果は山岳で最高に美味な果実である。(「骨風/風の玉子」篠原勝之)

前を向いても上を見上げても、高層ビルのせいで空が小さく見えるニューヨークでの生活に倦んでいる洋子には、海上に広がる空の単純な大きさが、爽快に感じられた。パームツリーやイチジクの木の緑には、微睡むような白んだ光が注いでいる。足下の芝生に落ちている影に目を遣りながら、洋子は、それが決して単なる黒ではない、様々な色を持っていることを改めて知った。(「マチネの終りに」平野啓一郎)

家の横から道のほうへ、かなり斜めに傾いて生育しているいちじくの木の、大男の手ほどもある枚数の葉が少女の顔を濃い影で包んでいた。そのため、少女の顔だけが、まるで宙に浮いているブロンズの像みたいに、すべての表情を削ぎ取った動かない容貌として、熊吾の視界に入った。・・・麻衣子は警戒するように一、二歩あとずさりした。いちじくの葉の影は去り、周栄文の面影をわずかに目元と鼻の形にだけ受け継いだ、色白で、唇の右下にほくろを持つ、少女の全身が太陽に照らされた。(「流転の海第二部・地の星」宮本輝)