ナナカマド(七竈)

別名 
科属 バラ科ナナカマド属
学名 Sorbus commixta

性状
落葉高木
葉の分類
互生、複葉、奇数羽状複葉、切れ込みなし、鋸歯あり
類似
備考

参考: 葉っぱでおぼえる樹木(柏書房)/日本の樹木(山と渓谷社)/樹に咲く花(山と渓谷社)

樹形


11.05.05小石川植物園

樹木解説

高さは普通6-10mだが15mになるものもある。樹皮は暗褐色で、細長い皮目がある。葉は奇数羽状複葉、小葉は4-7対あり、長さ3-7cmの披針形または長楕円披針形で先はとがる。ふちには浅く鋭い鋸歯があり、両面ともほとんど無毛。6-7月、枝先に複散房花序をだし、直径6-10mmの白い花を多数開く。雄しべは20個、花柱は3-4個。果実は直径5-6mmの球形で赤く熟す。

12.04.30筑波実験植物園

10.04.25上福岡

10.04.25上福岡

12.04.30筑波実験植物園

09.08.29蔵王

09.08.29蔵王

09.08.29蔵王

10.10.31湯元

小説の木々

路の両脇では、七竈の梢が風に揺れていた。抄一郎が子供の頃、炭の良材であるという理由で、城下の路という路に植えられた。紅葉はまだだが、実は赤く色づいている。「稲穂を枯らす天候の異変も、この実だけは関わりないようだな」踵を返しかけた助松が、変わらずに結び続ける赤い実に目をやりながら、ぽつりと言った。「そうだな」やがて紅葉になって、葉がすっかり落ちても実は枝にとどまりつづけ、冬鳥の嘴を待つ。そうして新たな土地で、若い芽を伸ばす。「では今度こそ参る」七竈から顔を戻して、助松は言った。(「鬼はもとより」青山文平)

大分明るくなった視界に、ナナカマドが群生していた。その中の一本に目をつけた。おそろしく粘りがあり、折れにくい特性を思い出していた。ことに奥山のものは木目が詰まっている。山崎に聞いたのだ。低い標高のものより奥山のものが頑丈なのだ、と。積雪に耐え忍ぶ環境が強い幹をつくるのかもしれない。その昔、刀鍛冶は一日がかりで山にわけいりナナカマドを採集したという。槌の柄に、これほど最適なものはないと労を惜しまなかった。そう聞いた。孝也は腰から鉈をとり、手首より幾分太いナナカマドを伐採した。先を鉛筆のように尖らせ、背丈より幾分低めに仕立て上げた。雪渓を下りるとき、役立つとひらめいたのだ。勢いよく振り下ろした。木刀の素振りのようにすると小気味良く風を切った。(「光る牙」吉村龍一)

山腹にうっすらと赤味が差しているのはナナカマドの実のせいだ。鮮やかに秋を彩った紅葉があらかた落ちたあとも、実は枝にとどまって冬の鳥を待つ。・・門を一歩出ると不忍池の向こうに寛永寺の御山があって、全山が紅葉で埋め尽くされている。その燃え上がるような赤を目にするたびに、阿部長英は国の鶴瀬山を想う。いまごろはもうすっかり秋の衣装を落として、ナナカマドの赤い実だけが山腹にしがみついているだろう。柳原の人間にとって、最も心に刻まれているの山の姿は新緑でも紅葉でもない。すっかり葉が落ちたあとも、けっして枝を離れようとせぬ小さな実で彩られた山だ。煙ったような赤が、色を失った山肌を掃く。武家たる者はあの実のごとくあれと、物心ついた頃から、いつも説かれてきた。冬鳥に啄まれるのを待つ、あの赤い実のように、自らの身を捨てて、いつの日にか芽吹くことを期すのが武家である、と。(「かけおちる」青山文平)

十月の声をきいてナナカマドをはじめあらゆる草木の紅葉は鮮やかな朱色に染まり、空までもほんのりと赤みをおびている。午前中は青空が見えていたが、午後になると霧が湧きあがり風もいくらか出てきた。気温も新雪間近らしく日ごとに低下していた。・・・ことに北穂の山頂の辺りは刃のように氷が冷たく光っており、秋風がその上空に無心なまでに清冽である。つい一週間前に登ったあの燃えるような紅葉の谷間が、ほんの幾日かの時間を隔てて、かくも変貌するとは私には信じがたく、わずかにナナカマドが乾いた枝にグミに似た実をつけて、新雪の谷間に朱色を点滴とさせている。(「穂高に死す」安川茂雄)