キンモクセイ(金木犀)

別名
科属 モクセイ科モクセイ属
学名 Osmanthus fragrans var. aurantiacus

性状
常緑低木
葉の分類
対生、単葉、広葉、切れ込みなし、鋸歯なし(あり)
類似
備考
ギンモクセイの変種、雌雄異株であるが、日本には雌株はない。

参考: 葉っぱでおぼえる樹木(柏書房)/日本の樹木(山と渓谷社)/樹に咲く花(山と渓谷社)

樹形


11.10.06神代植物公園

樹木解説

高さは普通4-6m、大きなものは10mを越える。樹皮は淡灰褐色。葉は対生し、長さ6-12cmの広披針形または長楕円形で、先は尖り、基部はくさび形。ふちはほとんど全縁か、またはごく細かい鋸歯がある。10月、葉のわきに橙黄色の小さな花が多数束生し、強い芳香を放つ。花冠は直径5mmで4裂する。雌雄異株。雄花には雄しべが2個と先が尖った不完全な雌しべが1個ある。日本には雌花はない。萼は緑色で浅く4裂する。

10.03.04昭和記念公園

10.04.24上福岡

08.11.09上福岡葉縁は鋸歯のあるものとほぼ全縁で波状のものがある

09.09.27栃木

小説の木々

重たげな雨雲がゆっくりと町を通り抜けた日、下校途中に傘を畳んだ小春は制服の袖が長くなった自分たちと同様に、空も装いを変えたことに気づいた。腕を差し入れたらいかにも冷たくて気持ちが良さそうな、澄んだ薄紫色の空が広がっている。ちぎれ雲の端は銀色だ。鼻先をくすぐる香りに振り返れば、マンションの入り口に植えられた金木犀がぽつぽつと橙色の花を咲かせていた。しっとりと濡れ、雨の匂いと混じり合う。(「骨の彩り」綾瀬まる)

「トイレの砂にまだGARAの匂いが残っている・・」オンナが呟いた。どんな匂いなんだとは訊き返さなかった。いつだったか、キンモクセイがいい匂いだと目を細めたオンナに、赤ん坊のときに患ったジフテリアの後遺症で鼻の利かないオレは、味にたとえたらどんな具合だと訊いたことがある。オンナはいろんなたとえの言葉を並べていたけれど、匂いを実感することは出来なかった。(「骨風/矩形と玉子」篠原勝之)

日に日に復帰への自信が失われてゆく秋の日、道ばたで金木犀のにおいを嗅いだ瞬間に「諦め」が勝った。うまい理由も見つけられず、せき立てられるように再出発の用意を始めたあのとき、自分はなにより東京の街を出たかったのかもしれぬと思った。手足を前に伸ばすのではなく、風に押し出されたのか。それとも目減りする貯金に気力が萎えかけていたのか。視界にある雪景色がことさらノリカの問いをつよめていく。・・・スポンサーなしでやっていこうと決めたのが去年の秋、金木犀のにおいを吸い込んだときだったことも、ずいぶん遠く見えた。(「裸の華」桜木紫乃)

ふいに窓から一陣の風が吹きこんだ。咲きかけの金木犀が、せつないほどあざやかに匂いたった。(「侵蝕」櫛木理宇)

公園のベンチに腰をおろし、俊樹は傍らの木を見るともなしに眺めている。金木犀である。高さは三メートルほどで、楕円形の葉のなかに橙色の小さな花をいくつか咲かせている。駅の近くにあるこの公園はどうやら早咲きの種類らしい。姉と会った帰りだった。電車を乗りつぎ、住まいのある駅でおりて児童公園の脇を歩いていたら懐かしい匂いが鼻をくすぐった。なぜか胸の芯をかきまわすような、そんな甘酸っぱさというか、やるせなさのようなものを感じさせた。古い借家に住んでいたころ、秋になると必ず漂ってくる、嗅ぎ慣れた匂いでもあった。(「漂流家族/紅の記憶」池永陽)

金木犀の香りが湯気とともに濃く千春に襲いかかってきた。大浴場の大きなガラス窓の向こうには岩を積み重ねて作られた露天風呂があり、そこには金木犀の木を何本も切り揃えた植え込みで囲まれている。金木犀の葉や枝が、これほど隙間なく密生して、外部と遮断するまでに育つには、何年くらいかかるのだろうと思いながら、千春は大浴場の戸を少しあけて、真喜子の様子を眺めた。(「星宿海への道」宮本輝)