小説の樹々2025年
バラには様々な咲き方がある。一季咲きなら春のみに花を開くが、返り咲きなら春の開花の後、夏、秋にも若干花を付ける。四季咲きのバラは春夏秋と咲き続け、温度管理さえすれば冬でも咲く。玲子は冬バラが嫌いだった。葉が半ば落ちて棘が目立つ枝にしがみつくようにして花を咲かせる。その花が鮮やかであればあるほど、なんだか惨めで潔くないと感じたからだ。無論、この様子を健気だとか孤高の美だと言う人もいる。だが、玲子には冬バラがお高くとまって見えた。・・冴え冴えとした冬の青い空の下、真っ赤なバラが一輪風に揺れている。まるで玲子をあざ笑うかのようだ。逃げても無駄。おまえもあたしと同じ、と。玲子は思わず震えた。きっと今も怖い顔になっているだろう。わかっているのに抑えられない。・・木枯らしが唸りを上げて耳元をかすめていった。冬バラが激しく揺れた。玲子はじっと血の色をしたバラをみつめていた。(「イオカステの揺籃)遠田潤子)
「かくれみの」の読書歴
蔵書を整理した。中学校の頃から読書を始め、最初に読んだ文庫本は伊藤左千夫の「野菊の墓」だったと記憶している。確かS.Oさんから借りたものではなかったか。今から思えば、本を貸してくれたことは実は告白だったか?学生の頃は電車通学で文庫本を読んでいたが、例外なく太宰治、芥川龍之介、志賀直哉、夏目漱石あたりから始め、三島由紀夫、福永武彦、立原正秋等へといった。借りて読むのは好きではなくほとんど購入していた。三浦哲郎の「忍ぶ川」はいつごろ読んだのだろうか。しかし、家でボヤをだし、この時代の蔵書は水浸しで全部捨てた。会社に入ってからは読書の習慣がしばらく絶えて電車の中ではビックコミックを愛読していた。いつの頃からか再び読み始めているが、多少金銭的余裕もできてハードカバーも購入し始めた。気に入った本があると同じ著者物を続けて読む傾向もある。当然ながらいつの間にか本が山積みになり始めた。でも捨てきれないでいる。(本棚左下の家マークをクリックするとマイ本棚へ)
灯台を読む(安部龍太郎他)/ISBN978-4-16-391903-4
株式会社文藝春秋 第1刷 24年10月10日発行/25年02月08読了
私が灯台巡りをしていることを知って、古い友人(小学校の同級生)から本を贈呈してもらった。それがこの「灯台を読む」。今まで灯台に関する本でこのようにまとまった紀行文は読んだことがなかったので、読む前から楽しみだった。6人作家が19基の灯台を巡り、全国の灯台とその歴史、文化を見て回り紀行文を書いている。私の視点とは異なるが大変興味深い。海上保安庁職員がついているので、普通は登れないテラス、また、入れない灯台内部、灯室へも入ることができ特別扱いだがこれは羨ましい限りだが仕方がない。
灯台は無作為、無造作に作られたわけではなく、海難事故の多い危険な場所で海を照らし船の安全を守ってきた。また、無人化されるまで灯台守の家族がそこで不便な生活を強いられてきた。映画「喜びも悲しみも幾年月」でも描かれている。同時にその時代の背景、歴史、あるいはその地方の文化とも密接に関連している。
昨今、GPSが発達し、灯台の役割も減少したというが、すべての船が灯台を必要としないというものでもない。歴史的に貴重な灯台は文化財にも登録されてその歴史を刻んでいる。灯台によっては地元振興にも使われている。個人的には灯台の美しさに魅せられて巡っているが、切立った岸壁の上に孤高としてその役割を全うし立つ灯台の魅力は捨てがたいものがある。
この本に紹介されている灯台19基のうち3基はまだ行ったことがない。鴎島灯台は昨年行こうとしたが新幹線の指定が取れず断念、神威岬灯台は路線バスが廃線になり断念、高知灯台は他に行くところが周りにないので悩んでいる。しかし、もう一度計画を作り直し、いずれ回ってみるつもりである。