小説の木々12年01月

 校舎の建っている土地と校庭との間には落差がある。落差のぶん地面を掘り下げたかたちなので、校庭は水の涸れた湖の底のように見えなくもない。その楕円形の湖のほとりを一巡り、樟や銀杏や桜といった樹木が囲んでいる。それらの中に群を抜いて背の高い木が一本あって、名前がわからなかった。たぶん二十メートルを超えているだろう。職員室は二階にあるのだが、他と違いその木だけは見下ろす感じにならない。葉を落としつくした枝は左右対称に鋭い角度で上へ伸びていて、しかも梢のほうは極端に短くなっているので、全体のシルエットはちょうど錐の先端を拡大したようである。メタセコイヤ、という名前を同僚の誰かから聞いたおぼえがあるが、確かではなかった。「彼女について知っていることのすべて(佐藤正午)」

氷菓(米沢穂信)★★★☆☆

株式会社角川書店 角川文庫 第26刷 11年5月30日発行/12年01月07日読了

 探偵役の折木が、少ない事実から真実を推理する謎解き物、青春学園ミステリーという部類だそうだ。まあ、軽く面白いというところか。

彼女について知ることのすべて(佐藤正午)★★★☆☆

株式会社光文社 光文社文庫 初版第1刷 11年11月20日発行/12年01月11日読了

 不思議な読後感。メタセコイアが印象的でした。私ならおそらくまた、遠沢めいに電話するだろうな。「おおむね、木はその木を植えた人間よりも長生きする」

ポニーテール(重松清)★★★★☆

株式会社新潮社 第1刷 11年7月20日発行/12年01月13日読了

 いつもの重松らしい作品である。母と死別したフミの父と、父が離婚したマキの母が再婚した。それぞれが思いを持ちながら、一歩一歩家庭を新しく作り直していく。無愛想で潔癖症のマキ、そんなマキがフミにお古の赤いベースボールキャップをフミあげる箇所でホロリ。まだまだ時間は掛かるかもしれないが大丈夫と感じさせてくれる。

銀婚式(篠田節子)★★★☆☆

毎日新聞社 第1刷 11年12月10日発行/12年01月15日読了

 証券会社に入社、MBA取得、妻、一人息子と海外勤務、まさに順風満帆の人生だった・・・筈。これが妻の海外生活からくるストレス、離婚、会社の倒産、親友の死、東北の三流大学への就職と、「人生はうまくいかないからおもしろい」と父は言ったが、まさに暗転流転の人生。息子の結婚式に別れた女房と夫婦として参列し、「やりなおすか?もうニューヨークではないし」と漏らす。くしくも結婚して25年目であった。人生は引き算か足し算か、それともプラスマイナスゼロか。

空白の叫び・上(貫井徳郎)★★★★☆

株式会社文芸春秋 第3刷 10年10月20日発行/12年01月18日読了

 最初から不穏な空気です。小学生の時は苛められ中学になり反対に苛め役になる美也(よしみ)、美形でスポーツも学力も万能な拓馬、両親に捨てられ祖母、叔母に育てられたボク(尚彦)。三人とも14歳、中学3年生。それぞれが異なる環境で、それぞれに人殺しを犯す。全巻1,300ページの長丁場であるが、早速中・下巻が楽しみである。

空白の叫び・中(貫井徳郎)★★★☆☆

株式会社文芸春秋 第1刷 10年6月10日発行/12年01月20日読了

 三人の過酷な少年院生活、また、出所してからの世間の冷たい風。少年法に守られ、少年院では罪を償なわい、更正するだけ。さらに危なっかしい不穏さがつきまとう。しかし、拓馬と尚彦が兄弟というのはあまりに偶然に過ぎる。

空白の叫び・下(貫井徳郎)★★★★☆

株式会社文芸春秋 第2刷 10年10月20日発行/12年01月20日読了

 一気に最後まで読んだ。少年法(本書は法改正前で16歳以上)の難しさである。加害者が法で守られ被害者が徹底的に攻撃される社会的矛盾。拓馬は重みを受け止め生きて行こうとする。美也は逃げないことが贖罪と思い、自首をする。その中で神原尚彦だけは瘴気(熱病を引き起こす山川の毒気)に飲み込まれ、徐々に崩れていく。

流燈記(三浦哲郎)★★★☆☆

株式会社筑摩書房 初版第1刷 11年12月20日発行/12年01月22日読了

 三浦哲郎は「忍ぶ川」以来であろうか。茸狩りにきた耕三は偶然見つけたトーチカ跡をみて、三十年振りに戦争当時を思い出す。抑圧された戦争末期、]一人の年上の女性満里亜(マリア)と出会う。この満里亜はときどきドキッとするようなことをいう。三島由紀夫の「潮騒」、三浦哲郎の「忍ぶ川」に通じる思春期の恥じらいと甘い香り。解説にもあるが少し尻切れで、この先の二人がどうなったのか。しかし、耕三の思い出からすると、おそらく燈籠流しの日だけで、それきり二人は二度と会ってはいないのだろう儚さも。静謐に流れ行く燈籠の灯のような物語。

アンダーリポート(佐藤正午)★★★☆☆

株式会社集英社 第1刷 11年1月25日発行/12年01月30日読了

 前作(彼女について知ることのすべて)はメタセコイヤでした。本作はランタナ、「ランタナという花は和名を七変化ともいうらしい、いったん咲いた花が時とともに色を変えてゆく。なかに淡い黄色か次第にピンクに変化していく品種があり、・・・」香水の匂いが重要なヒント。小堀の婚約者美由起は実にいやな女だな。しかし、おそらく叔母の交換殺人は気がついていたのではないか。少々まどろっこしくて疲れた。

女ともだち(真梨幸子)★★★☆☆

株式会社講談社 講談社文庫 第1刷 12年1月17日発行/12年01月31日読了

 真梨幸子ドロドロ三部作。みんな負けず嫌いの女性、負の要素がバイタリティになる。「野江は、辺りを見回した。ここはどこだろう?四辻?パンプスを起点医、四つの道が、それぞれ好き勝手な方向に伸びている」好むと好まざるとに関わらず人は一つの道を選らぶ。それが破滅に道につながっていることの知らずに。それでも女のいやな部分をこれでもか、と暴く。