小説の樹々22年02月

夏の終わりの夜は蒸し暑くて、どこからか花火の匂いがした。空を仰ぐと百日紅の赤が夜目に鮮やかに映る。その向こうには小さな星が幾つか瞬いていて、明日も晴れだと言っている。酔った勢いで美晴の手を掴み、子どものようにぶんぶん振って歩く。鼻歌を歌うと美晴が笑ったから、私も笑った。他愛ない夏の一日だった。(「52ヘルツのクジラたち」町田そのこ)

「かくれみの」の読書歴

蔵書を整理した。中学校の頃から読書を始め、最初に読んだ文庫本は伊藤左千夫の「野菊の墓」だったと記憶している。確かS.Oさんから借りたものではなかったか。今から思えば、本を貸してくれたことは実は告白だったか?学生の頃は電車通学で文庫本を読んでいたが、例外なく太宰治、芥川龍之介、志賀直哉、夏目漱石あたりから始め、三島由紀夫、福永武彦、立原正秋等へといった。借りて読むのは好きではなくほとんど購入していた。三浦哲郎の「忍ぶ川」はいつごろ読んだのだろうか。しかし、家でボヤをだし、この時代の蔵書は水浸しで全部捨てた。会社に入ってからは読書の習慣がしばらく絶えて電車の中ではビックコミックを愛読していた。いつの頃からか再び読み始めているが、多少金銭的余裕もできてハードカバーも購入し始めた。気に入った本があると同じ著者物を続けて読む傾向もある。当然ながらいつの間にか本が山積みになり始めた。でも捨てきれないでいる。(本棚左下の家マークをクリックするとマイ本棚へ)

奔流の海(伊岡瞬)★★★☆☆/ISBN978-4-16-391491-6

株式会社文藝春秋社 第1刷 22年01月30日発行/22年02月04日読了

序章の台風災害は何なのだろうとしばらく思いながら読み進めた。後半になって数奇な運命に翻弄された裕二の話が繋がってくる。子供虐待の親を懲罰することは、社会的には許されないが、目をつむりたい。了も悪人ではなくて良かった、最後はハッピーエンドになって欲しかった。雑学として知ったこと。
1.星の等級は目視できる星を明るい順に1-6等級に分けた。
2.星座のα星、β星・・は星座の中の明るい順の星順。
3.北極星という星はなく、今はこぐま座α星(ポラリス)だが、12,000年後には織姫座のベガになる。クフ王のピラミッドが建てられた4,500年前の北極星はりゅう座α星ツバーン。

嚙み合わない会話と、ある過去について(辻村深月)★★★☆☆/ISBN978-4-06-525891-0

株式会社講談社 講談社文庫 第1刷 21年10月15日発行/22年02月05日読了

読み進めるとじわっと不快になってくる恐ろしい物語である。大した事件でもないが、自らはそれほど意識していなかったのに、実は相手はかなり傷ついていて、それが後年ブーメランのように鋭い刃を付けて帰ってくる。

いちばん悲しい(まさきとしか)★★★☆☆/ISBN978-4-334-77918-4

株式会社光文社 光文社文庫 第2刷 21年11月25日発行/22年02月13日読了

ある雨の日男が刺殺される。警察は動き始めるが、2か月たっても一向に犯人像は浮かんでこない。これは犯人捜しの推理小説えはない。真犯人と動機は後半に出てくる。みんな悲しい、誰が一番悲しいのか。薫子は真相に迫るが決定打がなく、事件は闇に紛れる。

護られなかった者たちへ(中山七里)★★★★☆/ISBN978-4-299-00633-2

株式会社宝島社 宝島社文庫 第7刷 21年11月04日発行/22年02月20日読了

生活保護の不正受給がときどき問題になる。震災保障でもコロナ保証でもある一定数の不正受給が発生する。それが国民民衆。性善説では解決されない。予算にも人にも限りがあり、窓口が悪いとだけは言えない。詐欺罪の罰を大幅に厳罰にするしかないのか。

きわこのこと(まさきとしか)★★★☆☆/ISBN978-4-344-02799-2

株式会社幻冬舎 第1刷 15年08月05日発行/22年02月26日読
文庫本の「ある女の証明」(改題)と同じものと分かったので、読むのを止め、第四章の途中で文庫本に乗り換えた。なんとも不快にする内容である。

ある女の証明(まさきとしか)★★★☆☆/ISBN978-4-344-42800-3

株式会社幻冬舎 幻冬舎文庫 第2刷 18年11月10日発行/22年02月28日読了

文庫本化にあたり加筆訂正、終章追加となれば、こちらを読むだろう。5つの事件が徐々に時間を遡りながら展開する。貴和子が出てきたり出てこなかったり、人物関係が分かりにくい。もう一度読むかと思わせる。第四章の子供虐待は読むのが辛かった。