小説の木々15年01月

公園は、雑木林とほんの少しの子供の遊具があるだけの広場からできている小公園で、たいていは人気がなくひっそりとしている。地所の三分の二を雑木林が占め、雑木の大部分はくぬぎとこならだった。その間に数本の松とあかしで、けやきなどがまじり、雑木林と広場の境目には奇怪な形をしたにわとこの木が三本ならんでいる。ほかに公園の出口にもみの木と貧弱な桜があるのは、にわとこと一緒に後から植えたものだろう。(「早春」藤沢周平)

「かくれみの」の読書歴

蔵書を整理した。中学校の頃から読書を始め、最初に読んだ文庫本は伊藤左千夫の「野菊の墓」だったと記憶している。確かS.Oさんから借りたものではなかったか。今から思えば、本を貸してくれたことは実は告白だったか?学生の頃は電車通学で文庫本を読んでいたが、例外なく太宰治、芥川龍之介、志賀直哉、夏目漱石あたりから始め、三島由紀夫、福永武彦、立原正秋等へといった。借りて読むのは好きではなくほとんど購入していた。三浦哲郎の「忍ぶ川」はいつごろ読んだのだろうか。しかし、家でボヤをだし、この時代の蔵書は水浸しで全部捨てた。会社に入ってからは読書の習慣がしばらく絶えて電車の中ではビックコミックを愛読していた。いつの頃からか再び読み始めているが、多少金銭的余裕もできてハードカバーも購入し始めた。気に入った本があると同じ著者物を続けて読む傾向もある。当然ながらいつの間にか本が山積みになり始めた。でも捨てきれないでいる。(本棚左下の家マークをクリックするとマイ本棚へ)

最後のトリック(深水黎一郎)★★☆☆☆

株式会社河出書房新社 河出文庫 第2刷 14年10月30日発行/15年01月07日読了

たったひとつ最後に残った犯人像「読者が犯人」という意欲的な試みのようである。恐怖で心筋梗塞を起こし死まで至るかは、やってみなければわからないこと。それを読者が犯人だと決めつけるのもすんなり納得できるものではない。最後の真相が表れるまで、退屈で読みづらく何度か投げ出したくなった。

早春(藤沢周平)★★★☆☆

株式会社文藝春秋 文春文庫 第11刷 09年12月25日発行/15年01月11日読了

藤沢周平が現代ものを書いていたとは知らなかった。解説には「凡作」とあるが、現代小説では照れくさくてかけない、という作者の気持ちの置き所だろうが、悪くない。これを時代物にするのは武士ではなく町人でなくてはできないが、なんだか時代物では気が抜けるような気もする。「深い霧」も「野菊守り」も最後に武士であることで決着しているが、「早春」にはそうした劇的なものはない。だからこそ余計に悲哀がにじみ出るのではないだろうか。

迷宮遡行(貫井徳郎)★★☆☆☆

株式会社新潮社 新潮文庫 第15刷 14年4月20日発行/15年01月13日読了

ダラダラと疾走した妻を探し、非現実的なヤクザとの立ち回り。挙句に殺人者となり、探していた妻をも見殺しにする。謎解きもなく、ただ退屈。

光線(村田喜代子)★★★☆☆

株式会社講談社 講談社文庫 第2刷 14年8月6日発行/15年01月20日読了

11年3月11日、東日本大震災、福島の原発事故と時期を同じくしてガンの放射線治療。片や破壊し、片や救済し、冷酷な事実と皮肉を感じる。「山の人生」の爺捨て山には、昨今の老齢者社会こそより現実的ではないかと錯覚さえする。「楽園」の闇の怖さを、ゾワゾワしながら読んだ。