小説の木々17年12月

開け放した窓から手をのばしたら、捕まえてしまいそうだった。くもにはあたしの手が見えないのか、糸でぐるぐるまきにして真っ白になったオニヤンマに咬みついたまま、動かないでいる。高い笑い声が、巣のかかる夾竹桃の茂みのむこうに上がった。あたしは手をひっこめて、ピアノの前に戻った。(「みなそこ」中脇初枝)

「かくれみの」の読書歴

蔵書を整理した。中学校の頃から読書を始め、最初に読んだ文庫本は伊藤左千夫の「野菊の墓」だったと記憶している。確かS.Oさんから借りたものではなかったか。今から思えば、本を貸してくれたことは実は告白だったか?学生の頃は電車通学で文庫本を読んでいたが、例外なく太宰治、芥川龍之介、志賀直哉、夏目漱石あたりから始め、三島由紀夫、福永武彦、立原正秋等へといった。借りて読むのは好きではなくほとんど購入していた。三浦哲郎の「忍ぶ川」はいつごろ読んだのだろうか。しかし、家でボヤをだし、この時代の蔵書は水浸しで全部捨てた。会社に入ってからは読書の習慣がしばらく絶えて電車の中ではビックコミックを愛読していた。いつの頃からか再び読み始めているが、多少金銭的余裕もできてハードカバーも購入し始めた。気に入った本があると同じ著者物を続けて読む傾向もある。当然ながらいつの間にか本が山積みになり始めた。でも捨てきれないでいる。(本棚左下の家マークをクリックするとマイ本棚へ)

ダブル・フォールト(真保裕一)★★★☆☆

株式会社集英社 集英社文庫 第1版 17年10月25日発行/17年12月09日読了

殺人者の弁護人となった本條。例え極悪人といえども、法の上の公平さから誰でも弁護人を立てる権利がある。被告人の弁護士が被害者の娘と接触し、隠された真実を求め、手助けするのはどうみてもまずい。暴く必要もない真実を暴くことが、果たして正しいことか。

最後の恋(阿川佐和子他)★★★☆☆

株式会社新潮社 新潮文庫 第42刷 17年11月10日発行/17年12月14日読了

「ヒトリシズカ」が、最後の落ちが何となく分かりながらも読み進めた。「瑞江さんが不憫で、いたたまれないのよ。もう忘れてやって下さい。」と男の母が言う。忘れることはもう一度死ぬこと。忘れる必要はないと思うが、生きなおすしかない。「おかえりなさい」は、苦いビールだ。

キャロリング(有川浩)★★☆☆☆

株式会社幻冬舎 幻冬舎文庫 初版 17年12月10日発行/17年12月26日読了

真面目な内容なのに、どうしてこうもコメディにするのだろうか。コメディにしないと気恥ずかしくて言えない?どうもコメディタッチは居心地が悪い。