小説の樹々22年06月

夏の終わりの夜は蒸し暑くて、どこからか花火の匂いがした。空を仰ぐと百日紅の赤が夜目に鮮やかに映る。その向こうには小さな星が幾つか瞬いていて、明日も晴れだと言っている。酔った勢いで美晴の手を掴み、子どものようにぶんぶん振って歩く。鼻歌を歌うと美晴が笑ったから、私も笑った。他愛ない夏の一日だった。(「52ヘルツのクジラたち」町田そのこ)

「かくれみの」の読書歴

蔵書を整理した。中学校の頃から読書を始め、最初に読んだ文庫本は伊藤左千夫の「野菊の墓」だったと記憶している。確かS.Oさんから借りたものではなかったか。今から思えば、本を貸してくれたことは実は告白だったか?学生の頃は電車通学で文庫本を読んでいたが、例外なく太宰治、芥川龍之介、志賀直哉、夏目漱石あたりから始め、三島由紀夫、福永武彦、立原正秋等へといった。借りて読むのは好きではなくほとんど購入していた。三浦哲郎の「忍ぶ川」はいつごろ読んだのだろうか。しかし、家でボヤをだし、この時代の蔵書は水浸しで全部捨てた。会社に入ってからは読書の習慣がしばらく絶えて電車の中ではビックコミックを愛読していた。いつの頃からか再び読み始めているが、多少金銭的余裕もできてハードカバーも購入し始めた。気に入った本があると同じ著者物を続けて読む傾向もある。当然ながらいつの間にか本が山積みになり始めた。でも捨てきれないでいる。(本棚左下の家マークをクリックするとマイ本棚へ)

チョウセンアサガオの咲く夏(柚月裕子)★★★☆☆/ISBN978-4-111247-2

株式会社KADOKAWA 初版 22年04月06日発行/22年06月06日読了

随分と力を抜いた短編集である。こちらも力を抜いて読めたが。「サクラ・サクラ」はよくネットで目にする美談。すでに一度読んだ気がする。「チョウセンアサガオ」はキョウチクトウ、ジンチョウゲ、スズランとともに毒性があり、ちょっと寂しく怖い話。ゴゼ物はこれで一つの世界。佐方検事物はシリーズでいつもの優しく鋭い検事の佐方が出てくる。

彼女が知らない隣人たち(あさのあつこ)★★★★☆/ISBN978-4-04-112157-3

株式会社KADOKAWA 初版 22年03月26日発行/22年06月12日読了

現代的な話題であり、外国人実習生、難民申請者、話にはないが外国人生活保護者や国民保険利用者もいる。日本の法制度はこれに追い付いていない。また、性善説での制度設計は必ずしもうまくいかない。必ず一定数の不正利用者をどう取り締まるか。鎖国時代ではないのである。

△がふる町(村崎羯諦)★★★☆☆/ISBN978-4-09-407120-7

株式会社小学館 小学館文庫 初版第1刷 22年02月09日発行/22年06月18日読了

少し頓珍漢な、不思議な発想で、しかもそれほど違和感もなく読める。着眼点が面白い。二人の孫の名前が漢字も同じで出てきたのには、その偶然に驚いた。