小説の樹々22年07月

夏の終わりの夜は蒸し暑くて、どこからか花火の匂いがした。空を仰ぐと百日紅の赤が夜目に鮮やかに映る。その向こうには小さな星が幾つか瞬いていて、明日も晴れだと言っている。酔った勢いで美晴の手を掴み、子どものようにぶんぶん振って歩く。鼻歌を歌うと美晴が笑ったから、私も笑った。他愛ない夏の一日だった。（「52ヘルツのクジラたち」町田そのこ）

株式会社新潮社　新潮社文庫　第9刷　22年02月10日発行／22年07月08日読了

門司にあるコンビニ「門司港こがね村店」に昼間からフェロモン出し捲りの店長がいる。こがね村店は高齢者マンションの1階にあり、品揃えもこれに対応し、近隣の住人、マンションの住人からも重宝されている。ただ、軽い街話で、毒に薬にもならないような軽いタッチの街話コメディ。のめりこむ程ではない。

株式会社小学館　小学館文庫　第14刷　22年01月31日発行／22年07月21日読了

余命と文字数、何も関係ない価値観のものを合わせる奇妙さが新鮮で興味深い。「何だかんだ銀座」は先日放送された「世にも奇妙な物語」で出てきたものだ。それなりに一羽ずつ完結しているが、もう少し深堀してみると面白いかもしれない。