31. 雪の津軽

雪の津軽鉄道、ストーブ列車が魅力である。かって読んだ太宰治の「津軽」をポケットに入れて、冬の津軽を旅することにした。

散策日
平成28年1月29日(金)-2月1日(月)
所 感
16.1.29五能線車窓から岩木山暖冬だと言われていた今年も、出発の数日前には沖縄地方にも雪が降る今年一番の寒波が日本列島を襲い、昨年の雪の少なさを心配するより交通機関への影響を心配していた。旅のお供に携帯する文庫本はやはり太宰治の「津軽」、この本は学生時代に読んではいたが、実時間で触れてみたい気がしていた。津軽地方の旅は岩木山をよく目にする。学生時代の春津軽に来たときは、小泊から海に浮かぶ岩木山をみて感動し、予定を変更して翌日岩木山に向かった。葛西善三はこう言ったという。「岩木山が素晴らしく見えるのは、岩木山の周囲に高い山が無いからだ。他の国に行ってみろ。あれくらいの山は、ざらにあら。周囲に高い山がないから、あんなに有り難く見えるんだ。自惚れちゃいけないぜ」

16.1.29大宮発6時58分はやぶさ1号

16.1.29新青森駅ねぶた飾り

16.1.29川部乗換で五能線へ

16.1.29川部を出ると雪の岩木山が

朝6時最寄りの上福岡駅に着くと何か場内アナウンスをしている。嫌な予感、と思ってみると電車が止まっている。幸い事故発生直後だったようで、まだタクシー前に行列が出来てなかったので、迷わず1台だけ止まっていたタクシーに飛び乗り南古谷へ急いだ。大宮発6時58分はやぶさ1号新青森行き。朝飯のお握りと酒とつまみを買いこみ、食事と朝酒をしながらおもむろに「津軽」を開く。「或るとしの春、私は、生まれてはじめて本州北端、津軽半島を凡そ三週間ほどかかって一周したのであるが。。」大宮は曇天、途中陽が差したりしたが新青森は小雪が舞う。奥羽本線で川部、乗り換えて五能線で五所川原へ行く。川部を出ると左車窓に岩木山が見えてくる。曇り空の中少し霞んで頂上は雲に隠れていた。

16.1.29五所川原駅走れメロス号

16.1.29雪深い金木駅

16.1.29豪邸の斜陽館

16.1.29津軽三味線会館

ストーブ列車は400円の別料金が掛かる。往路は走れメロス号で金木へ行き斜陽館に入る。太宰の生家というがなかなか豪邸で、資産家であったことを伺わせる。ガイドの話を聞くと当時「金木の殿様」と呼ばれ、300人の小作を使う県下有数の大地主だったそうだ。もっとも太宰自身は10番目の子で家長制の厳しい時代では立ち位置は難しかったと思う。金襖の部屋は「津軽」に出てくる。「私はジャンパー姿のままで二階に上がって行った。金襖の一ばんいい日本間で、兄たちは、ひっそりお酒を飲んでいた。私はどたばたとはいり、「修司です。はじめて」と言って、まずお婿さんに挨拶をして、それから長兄と次兄、ごぶさたのお詫びをした」津軽三味線会館で津軽三味線の生演奏を聞き、再び津軽線で津軽中里に行った。中里駅では酒、つまみを補給しようと面思ったら売店は閉店中。青森でもう少し食料を買い込んでおくのだったと臍を噛む。

16.1.29津軽中里駅ストーブ列車

16.1.29石炭をくべる車掌

16.1.29車内販売のスルメを焼く

16.1.29立佞武多(たちねぶた)館

津軽中里から五所川原の復路はストーブ列車に乗車。車掌が石炭をくべに来る。車内販売があったのでするめと酒を買い、するめは法被姿のガイドが目の前で焼いてくれた。正直なところ一人でしかも44分の乗車時間だけではするめは食べきれない。ストーブ列車は観光目的で別料金400円はストーブ列車維持費になるとういう。地元の人は乗らないだろうしたまたま団体も乗っていなかったが、この時期そこそこに観光乗客があり、列車でストーブを焚くことで観光列車にしたアイデアはローカル色豊かで残したい風物詩である。さて、今夜の宿は五所川原の温泉に入れるというBHサンルート。宿に行く前に立佞武多(たちねぶた)館に立ち寄り、ねぶた祭りでも使う本物の佞武多を見学し、その大きさに圧倒される。五所川原では津軽三味線の生演奏が聞ける「だだん」に行こうと思っていたが、この日は金曜の夜で貸し切りとのこと。しじみバターを食べ損ねた。凍りついた道を滑らないように慎重に歩き、BHの紹介の店に行き、酒とカレイの一夜干し、甘エビのから揚げを頼んだ。このBHの温泉風呂に入り、まずは一日目の疲れを取った。

16.1.30朝酒はじゃっぱ汁

16.1.30三厩駅から町バス

16.1.30雪が降る龍飛岬灯台

16.1.30津軽海峡冬景色の歌碑

朝、BHの朝食はちょっとお腹の調子が良くないのでお粥にして、五所川原から川部、青森と乗り継ぎ雪が降りしきる青森駅に着いた。ここで1時間余り待ち時間がありコーヒーでもと喫茶店を探すが駅近くの店はつぶれた様子で閉まっている。食事処が開いていたので、コーヒーを変更して青森の郷土料理のじゃっぱ汁と田酒で体を温めた。青森からJR津軽線で蟹田、そこで津軽海峡線に乗換え三厩(みんまや)へ。駅前には龍飛岬行の町営バス(片道100円)が待っている。客は10人程度か。終点龍飛岬に着くと、ここで1時間48分の時間があり、龍飛岬を見て、若生お握りを食べようと思ったが、食堂、レストランは閉まっている。考えてみたらこんなシーズオフの雪の中、開いている方がおかしいか、若生お握りを食べ損ねた。階段国道は雪道凍結のため閉鎖中。降りしきる雪の中、岬の突端へ行ったりレストハウスの方へ行ったりで雪景色を楽しみ時間を過ごした。事前調査不足で、5分程戻るとホテル龍飛があり、そこで日帰り温泉があった。知っていればもう少し時間を調整して日帰り温泉に入り酒が飲めたのに、と残念に思った。帰りのバスに戻る際、もう一度の歌碑のボタンを押し石川さゆりの歌う「津軽海峡冬景色」を聞いた。

16.1.30青森駅夕景色

16.1.30青い森鉄道

16.1.30つばきの夜食

16.1.30つばき露店風呂

帰りは三厩から青森まで直通。16時53分青森着、青森駅前は夕刻が迫っていた。今晩の泊りは温泉温泉宿屋つばき。この宿は棟方志功ゆかりの椿旅館の姉妹店。早速温めの大浴場に入り一風呂浴びた後夕食。考えてみれば出発してから初めて食事らしい食事にありついた。寝る前に丸い湯船の露天風呂に入り温泉気分を味った。

16.1.31八甲田スキー場

16.1.31八甲田ロープウェイ

16.1.31湯中のスキーヤー

16.1.31八甲田ロープウェイ駅

翌日、浅虫温泉から青森に戻りここで1時間余りバスの待ち時間。再び駅前の食事処へ入りじゃっぱ汁と朝酒。八甲田ロープウェイの利用者はほとんどスキーヤーだが観光客も混じっている。窓は凍りつきプラスティックの板でそぎ落としている。山頂駅付近の気象状況は、「天候雪/霧、温度-12℃、風15m/s、風向西」。ロープウェイも氷漬けの感じで外に出ると眼が開いていられない。樹氷も霞んでいる。スキーヤーも滑りだすと10m先で見えなくなる。昼食はここのレストランで暖かい山菜蕎。

16.1.31酸ヶ湯温泉

16.1.31千人風呂(写真)

16.1.31宿の廊下風景

16.1.31宿食

バスの冬季終点、酸ヶ湯温泉。温泉宿はこの一軒で、言い方を変えればこの一軒で温泉を維持している。日帰り温泉も入れるのでスキーヤーも立ち寄り、ロビーは混雑している。「っ随分混んでますね」というと、「ええ、今は大人の休日パスの期間ですから」と応えが帰ってきた。「東北冬の秘湯巡り」と銘打ったバスも止まっていた。随分広い温泉宿で、廊下も古めかしく鄙びた情緒がある。ここの売りは混浴の千人風呂。上掲の写真はもちろん廊下に飾ってあった昔の写真で、風呂内は撮影禁止。風呂内は湯気が立ち込めはっきり見えない。左半分は男性用、右半分は女性用としてあるが仕切りがあるわけではない。また、夜8時-9時、朝8時-9時は女性専用時間帯も設けられているし、千人風呂とは別に男女別の風呂場もある。食堂ではおそらくスキーヤーだろう、ジャージの上に浴衣を着た外人グループが器用に箸を使って食事をしていた。

16.2.01青森の駅弁

16.2.01新幹線車窓からの岩手山

16.2.01青葉城大手門脇櫓

16.2.01青葉城伊達政宗像

朝起きるとすぐ千人風呂に入り、旅館の送迎バスで青森に戻る。路は除雪車が道を整備してあり途中止まらないので思いの他早く到着た。予定では青森で列車待ちをして白石に行き3時間ばかり白石をぶらぶらと思っていたが、仙台で2時間、白石で2時間と予定を変更した。昨日売店で酒を買っていたとき地元の人だろうか、この駅弁が旨かったというので、その駅弁を買い急ぎ列車に乗り込んだ。盛岡辺りでは車窓から岩手山が綺麗に見えた。仙台には出張で何度も来ていたが、青葉城には行ったことがなかったので、仙台から地下鉄で国際センターまで行き歩いて青葉城を目指した。実はこれも勉強不足で、もう少し城跡が残っていると思っていた。再建された大手門脇櫓ぐらいがやっと城の雰囲気を残すのみでいささか期待外れ。

16.2.01白石蔵王でレンタサイクル

16.2.01傑山寺(片倉家菩提寺)

16.2.01白石城

16.2.01帰路の車窓より

白石の滞在は予定の3時間を短縮し2時間。白石蔵王駅の改札を出てもレンタサイクルの幟もない。ウロウロして駅員に聞き、レンタカー、観光案内所も兼ねたところでやっているというので入ってみると女性が一人で三役。5時まで300円、保証金500円。急ぎ荷物をコインロッカーに預け、チンケな自転車を借りた。パンフの白石城下七箇寺巡りコースによると自転車で1時間+見学時間コース。やばい既に15分経過しており結構ギリギリである。延命寺、専念寺、壽丸屋敷、妙見寺、当信寺、傑山寺、青林寺、定林寺と回り、白石城へ。城を降りると16時42分。最後の武家屋敷を戻り路でと思い、武家屋敷まで70mの標識を見たが、道を曲がり損ねて見つからず、あとは急いで白石蔵王駅に戻る。自転車を返し、荷物をロッカーから出し、酒とつまみを買いホームに上がると16時58分発の列車到着のアナウンス、なんとか間に合った。いろいろ失敗はしたがまあまあの旅だったと薄暗くなった車窓に流れる景色を見ながら思った。

<後記>昨年の雪見旅は暖冬で、角館、山寺では雪が少なくがっかりしたが、今回はたっぷり雪が降る東北を楽しんだ。今回は結果的に青森を起点にあちこち行ったことになる。同じ場所を訪ねるのでも、時期が異なると風情が異なる。学生時代には龍飛岬から小泊へバスで行き宿泊、十三湖ではしじみ汁を飲んで金木を通過し青森へ戻り岩木山に向かった。なんだか寒村で閑散としていたように思う。今回龍飛岬での日帰り温泉、若生お握り、「だだん」でのしじみバターと津軽三味線の生演奏、といくつかやり損ねたこともあるが、またの機会ということで、既に来年のゆっくりと温泉巡り旅を思い浮かべている。