小説の木々13年06月
目も綾な新緑にくまなくおおわれた盆地の底に、ニキビのようにぽつんと盛り上がった、晴れた日には日没まで影を寄せつけない小高い丘。そのてっぺんを華々しく飾り、数百年もの長きにわたって風雪に抗して区他、差し渡しが二メートルほどある、ケヤキの巨木。頂周辺の地表を荒々しく突き破っているごつい根と根の隙間にどっかと腰をおろし、見るからに頼もしい幹に背をもたせる。そして、自分の心根といちじるしく相反する温和な風土を全身で受け止める。(「我、涙してうずくまり」丸山健二)
「かくれみの」の読書歴
蔵書を整理した。中学校の頃から読書を始め、最初に読んだ文庫本は伊藤左千夫の「野菊の墓」だったと記憶している。確かS.Oさんから借りたものではなかったか。今から思えば、本を貸してくれたことは実は告白だったか?学生の頃は電車通学で文庫本を読んでいたが、例外なく太宰治、芥川龍之介、志賀直哉、夏目漱石あたりから始め、三島由紀夫、福永武彦、立原正秋等へといった。借りて読むのは好きではなくほとんど購入していた。三浦哲郎の「忍ぶ川」はいつごろ読んだのだろうか。しかし、家でボヤをだし、この時代の蔵書は水浸しで全部捨てた。会社に入ってからは読書の習慣がしばらく絶えて電車の中ではビックコミックを愛読していた。いつの頃からか再び読み始めているが、多少金銭的余裕もできてハードカバーも購入し始めた。気に入った本があると同じ著者物を続けて読む傾向もある。当然ながらいつの間にか本が山積みになり始めた。でも捨てきれないでいる。(本棚左下の家マークをクリックするとマイ本棚へ)
告訴せず(松本清張)★★★★☆
株式会社光文社 光文社文庫 第2刷 13年1月25日発行/13年06月01日読了
松本清張が1994年8月4日、小説はまったく古くない。告訴されない政治資金3,000万円を拐帯した男が、それを元手に小豆相場で一儲けを図るが、小豆相場での駆け引きは読んでいてもヒヤヒヤする。この儲けを信じた人達にうまいように詐取され、結果無一文になる。一体この男は何をしたのだろう。つくづく欲が絡む世界、げに恐ろしきは人間ということか。
箱の中(木原音瀬)★★☆☆☆
株式会社講談社 講談社文庫 第4刷 13年3月1日発行/13年06月11日読了
BLと知らずに買って読んだ。個人的には好きになれないが、喜多川が大きな子供のような気持ちを持つ男だとは分かる。しかし、ナー。せめて、文庫化の際に、箱の中、檻の外の続短編、「なつやすみ」も口直しに入れて欲しかった。
我、涙してうずくまり(丸山健二)★★★☆☆
株式会社岩波書店 第1刷 13年1月9日発行/13年06月12日読了
小説というより現代詩を読む雰囲気であった。思索的で独白の中に私の生涯が垣間見える。あるときは傲慢なほど躁状態で、あるときは今日にでも自死しそうな鬱状態であったり、めまぐるしく心の有り様が変化する。結婚生活の破綻が大きな要素となっている。それでも悩む姿は、畢竟再生への道なのか。
石の繭(麻見和史)★★★☆☆
株式会社講談社 講談社文庫 第1刷 13年5月15日発行/13年06月13読了
早々に第一、第二の殺人が起こり、動機、犯人も見えてくる。ただここからがこの本の醍醐味。第三の被害者は誰か、予想外の展開を見せる。
海賊とよばれた男(上)(百田尚樹)★★★☆☆
株式会社講談社 第20刷 13年4月12日発行/13年06月16読了
海賊とよばれた男(下)(百田尚樹)★★★☆☆
株式会社講談社 第20刷 13年4月12日発行/13年06月17読了
凄まじい人生である。それにしてもよくもこれほど次々と試練が続くことか。運も味方することがあっただろうが、信念、勇気と決断でことごとく乗り越えていく。また、良き将には良き兵という典型。教訓的で綺麗過ぎる嫌いはあるが一気読みさせられた。
こわれもの(浦賀和宏)★★☆☆☆
株式会社徳間書店 徳間文庫 初刷 13年5月15日発行/13年06月19日読了
文章が安直、平易なのか、タメがないのか、一向に緊迫感が感じられない。予知能力に頼る必要があったのか。帯の連続逆転劇、最後のどんでん返しというが、どんでん返しになっておらず、単に大して重要でない新事実を積み重ねただけ。
水晶の鼓動(麻見和史)★★★☆☆
株式会社講談社 講談社ノベルズ 第1刷 12年5月7日発行/13年06月22日読了
如月塔子のシリーズ物。刑事ものは面白いが徐々に娯楽だけになっていくような気がしてならない。
蟻の階段(麻見和史)★★★☆☆
株式会社講談社 講談社ノベルズ 第1刷 11年10月5日発行/13年06月24日読了
如月塔子シリーズ3冊目(あまりシリーズ物は読まないが)このシリーズは地取り、鑑取り、ナシ割りを地道にやっていくスダンダードなアプローチが好ましい。ただこの「蟻の階段」では少々レアな解の謎解きに比重が掛かり過ぎ。懲りすぎというべきか。
友罪(薬丸岳)★★★★☆
株式会社集英社 第2刷 13年6月24日発行/13年06月26日読了
解がない問題。いずれにしろ悪意ある無責任な大衆は唾棄すべきものだが、かと言って、どう向き合えばいいのか考えさせられる。書きたかった気持ちが分かるが、一体自分ならどうすると、考えるのは読者に、という典型だろう。
さいはての二人(鷺沢萠)★★★★☆
株式会社角川書店 角川文庫 第6刷 13年6月15日発行/13年06月30日読了
解説の「もう新作を読むことはできないのが残念だが・・・」に、えっ?早速ネットで調べると2004年に自殺している。心の襞を描くようで、読後感もいい。後半2編の短編は、少々幻影を交えての描きだが、しんみりと心温まる話がいい。
きみの町で(重松清)★★★☆☆
株式会社朝日出版社 初版第1刷 13年5月30日発行/13年06月30日読了
短い絵本。それぞれのテーマが随分難しい。こんな本があってもいいかなと思うが、対象は中学生くらいか、それとも案外大人向け絵本か。答えはない、ある断面を切り、それを見せ考えさせる。