小説の木々13年07月

 すでにしんと静まり返った小学校の横を、なんとなく息を殺して通り過ぎる。丘を登り切った一番上に、私の目的地はあった。手前にはぞんざいにラインを引いて駐車場に使われている空き地、はしに、名前は知らないが、濃い緑の葉に覆われ、赤い実をつけたかなり大きな木が一本。・・・やっとてっぺん。目的地に着いた。大きな木のほうから、甘い匂いが漂ってくる。古いアパートの隣が空き地になって、その隅に生えているのだ。ちょうど今の時期は、細かいぶつぶつが集まった、ビー玉くらいの大きさの赤い実をつけている。・・・うん、この実、ほかにはないんだよ。ぼく、ここでしか見たことがない。ヤマモモって言うんだ。(「FOR RENT-空室あり-」森谷明子)

「かくれみの」の読書歴

蔵書を整理した。中学校の頃から読書を始め、最初に読んだ文庫本は伊藤左千夫の「野菊の墓」だったと記憶している。確かS.Oさんから借りたものではなかったか。今から思えば、本を貸してくれたことは実は告白だったか?学生の頃は電車通学で文庫本を読んでいたが、例外なく太宰治、芥川龍之介、志賀直哉、夏目漱石あたりから始め、三島由紀夫、福永武彦、立原正秋等へといった。借りて読むのは好きではなくほとんど購入していた。三浦哲郎の「忍ぶ川」はいつごろ読んだのだろうか。しかし、家でボヤをだし、この時代の蔵書は水浸しで全部捨てた。会社に入ってからは読書の習慣がしばらく絶えて電車の中ではビックコミックを愛読していた。いつの頃からか再び読み始めているが、多少金銭的余裕もできてハードカバーも購入し始めた。気に入った本があると同じ著者物を続けて読む傾向もある。当然ながらいつの間にか本が山積みになり始めた。でも捨てきれないでいる。(本棚左下の家マークをクリックするとマイ本棚へ)

at Home(本多孝好)★★★☆☆

株式会社角川書店 角川文庫 初版 13年6月20日発行/13年07月01日読了

<10年11月の再読、本多孝好の新刊がでないので同じものを買ってしまった>生まれるときは好むと好まざるとに関わらず家族関係ができる。家族だからうまく行くものでもなく、家族だからより一層深い憎しみもある。4編とも奇妙な家族構成だが、それでも一応家族で、家族でいることに悩んでいる。家族になることは結果論だが、家族でいることは家族のそれぞれが家族として、いることの意味を見る必要がある。

手のひらの砂漠(唯川恵)★★★★☆

株式会社集英社 第1刷 13年4月10日発行/13年07月03日読了

DVに加えストーキング、なんとも遣り切れない。雄二の異常さには、読み進めるに従い恐怖を覚えるが、昨今の社会事情からすれば、特異なものでもない。投獄とは罪を償うものではなく懲罰でしかない。死刑廃止は賛同を得られない。それさえもできない場合はどうするのか、理不尽には理不尽をか。理不尽ができてよかったが、ラストはほろ苦い。

クロク、ヌレ!(真梨幸子)★★☆☆☆

株式会社講談社 講談社文庫 第1刷 12年10月16日発行/13年07月06日読了

なにしろテンポが速く、誰のことを話しているかころころ変わり目まぐるしい。それ自体は悪くはない。それぞれの女性がそれぞれの思惑に向かい邁進する。最後の落とし方が急速に萎んで尻すぼみ。真梨幸子らしいドロドロさが足りない気がする。

標高二八〇〇米(樋口明雄)★★★☆☆

株式会社徳間書店 徳間文庫 初刷 13年7月15日発行/13年07月08日読了

実に怖い話である。人間だけ柄が消える不思議は残るが、最終編「リセット」の神(?)へのリセット願望は未練でしょう。二つの東京駅を描く「最終電車」が、この手の話として味わい深い。

愛してる(鷺沢萠)★★★☆☆

株式会社角川書店 角川文庫 初版 94年11月25日発行/13年07月08日読了

ファッサードに集まる飲み仲間達。どうみても建設的な良い仲間とも言えないし、若さからめちゃくちゃもあり。もう少し読まないと分からない。

過ぐる川、烟る橋(鷺沢萠)★★★★☆

株式会社新潮社 新潮文庫 初版 02年2月1日発行/13年07月10日読了

夜の博多中洲の流れに映るネオンに、やりきれなさの残る作品である。

ウェルカム・ホーム!(鷺沢萠)★★★☆☆

株式会社新潮社 新潮文庫 第1刷 06年9月1日発行/13年07月12日読了

「フツー」であることとは何か。血の繋がらない家族が、家族愛で強く結ばれてもいいではないかと、家族のあり方を考え直す。

F落第生(鷺沢萠)★★★☆☆

株式会社角川書店 角川文庫 第3刷 98年5月30日発行/13年07月13日読了

出てくる女性がみんなある意味落第生。「運がいいとか悪いとか、他人はときどき口にするけど、そういうことって確かにあると私を見ててそう思う」でも、最後に小さな希望を持つのがいい。

教場(長岡弘樹)★★☆☆☆

株式会社小学館 初版第1刷 13年6月241日発行/13年07月14日読了 

主人公は風間教官。悉くを見通す冷徹な目で、警察官としてのふるいに掛けるのだが、目を掛ける所には目を掛ける。ただ、風間が目を掛けたのは問題を起こした生徒ばかりというのも。また、半年の教育期間中に、この特異な世界とはいえ、陰湿な恨みとイジメまがいが多過ぎ。

海の鳥・空の魚(鷺沢萠)★★★★☆

株式会社角川書店 角川文庫 第21刷 08年4月25日発行/13年07月15日読了

すべてがショートストーリーだが、海に放された鳥や、空に放られた魚達が、それぞれに立ち位置に戸惑いながらも、ほんの一瞬の「アッ」と感じる良いこと、悪いこと。ゆっくり長編を読んでみたかったですね。

星のかけら(重松清)★★☆☆☆

株式会社新潮社 新潮文庫 第1刷 13年7月1日発行/13年07月19日読了

さすがにこの手のものは飽きてきた。以前の作品より深みがない。読者層を中学生低学年にしたのでは。ましてやファンタジーでは感動も薄れる。

家族写真(荻原浩)★★★★☆

株式会社講談社 第1刷 13年5月29日発行/13年07月20読了

恋愛結婚は除いて、家族という関係は、親も子も好きでなった家族ではない。でも、だから家族って難しくて愛おしくて。身に詰まされることが多い話です。

FOR RENT-空室あり-(森谷明子)★★★☆☆

株式会社幻冬舎 幻冬舎文庫 初版 07年10月10日発行/13年07月21日読了

「あたしが殺した」と言って死んだ母の言葉と別に語られた事実のギャップは何か。物語と直接関係ない彼の深読みのいくつかの挿話は伏線として隠された真実に迫ることを仄めかす。雪生は一体何をした。いくつか曖昧さを残すが、読後ひっくり返したが結局彼の名前は分からない。あえて曖昧さもテーマのひとつか。それでは「空室」とは何か。

先生のあさがお(南木佳士)★★★☆☆

株式会社文藝春秋 文春文庫 第1刷 13年6月10日発行/13年07月26日読了

朝顔の種をもらう。その朝顔を育てながら、亡き先生を想い、自らを想い、どこからが現実でどこからが幻想か分からなくなる。特に、プールあとに会う女性とはこんなに深く会話したのだろうか。朝顔の成長とともに、思い出す事柄も何か沁み込んでくる。

正義をふりかざす君へ(真保裕一)★★☆☆☆

株式会社徳間書店 初刷 13年6月23日発行/13年07月30日読了

既に不破が街を去ったあとに起こした事件に、大瀧がこれほど不破を恐れる必要があったのだろうか、まして死を選ぶほどのものだったか。まるで知られたくない秘密が存在することを暗示するほどで、これほど手を出せば墓穴を掘ることになる。明かしたくない秘密が食中毒事件に関わる秘密ならドラスティックだったが、その意味で消化不良。