小説の木々13年11月
かろうじて残る緑といえるものは、校庭のはしに植えられた、桜の木だけ。それも異様に貧弱だ。ひょろりとのびる枝先に花はぱらぱらとさいているが、入学式を盛りあげるのはとうてい無理だ。「桜がわびしいでしょ。わたしが来たときは立派な桜並木だったんだけどね。まわりの家から、大きくなりすぎてじゃまだし、倒れたら危ないし、落ち葉が迷惑だって苦情が出てね、切り倒したのよ、みんな。だからこの桜は、去年植えられたばかりなの」(「きみはいい子」中脇初枝)
「かくれみの」の読書歴
蔵書を整理した。中学校の頃から読書を始め、最初に読んだ文庫本は伊藤左千夫の「野菊の墓」だったと記憶している。確かS.Oさんから借りたものではなかったか。今から思えば、本を貸してくれたことは実は告白だったか?学生の頃は電車通学で文庫本を読んでいたが、例外なく太宰治、芥川龍之介、志賀直哉、夏目漱石あたりから始め、三島由紀夫、福永武彦、立原正秋等へといった。借りて読むのは好きではなくほとんど購入していた。三浦哲郎の「忍ぶ川」はいつごろ読んだのだろうか。しかし、家でボヤをだし、この時代の蔵書は水浸しで全部捨てた。会社に入ってからは読書の習慣がしばらく絶えて電車の中ではビックコミックを愛読していた。いつの頃からか再び読み始めているが、多少金銭的余裕もできてハードカバーも購入し始めた。気に入った本があると同じ著者物を続けて読む傾向もある。当然ながらいつの間にか本が山積みになり始めた。でも捨てきれないでいる。(本棚左下の家マークをクリックするとマイ本棚へ)
蛇行する月(桜木紫乃)★★★★☆
株式会社双葉社 第1刷 13年10月20日発行/13年11月06日読了
二十も年上の菓子職人と駆け落ちして東京に逃げた清美。関わる5人の女性がそれぞれの思いで数年おきに25年にわたって清美に会うが、傍目には決してそうは見えないのに清美は「幸せだ」という。年とともに、清美の幸せって一体何?他人の幸せを素直に喜べるのか?しかしまるで天使のような清美は本当にこのままでよかったのか。
光待つ場所へ(辻村深月)★★★☆☆
株式会社講談社 講談社文庫 第1刷 13年9月13日発行/13年11月09日読了
以前の本に出てきた人物が再び出てくるなんともいえず親しみやすく思わずニヤニヤする。これだけでも、作者が登場人物を大切にしているのは分かる。「アスファルト」の孤独はシンパシーを感じる。
こちらの事情(森浩美)★★★★☆
株式会社双葉社 双葉文庫 第6刷 13年2月5日発行/13年11月12日読了
家族と正面から向き合うのは、照れか我侭か、他人とのようにドライにはいかないから難しい。思い返しても自分の過去にも当てはまる、随所に「痛い」と感じる場面がある。「荷物の順番」にこんな言葉が出てくる。「人の手はふたつしかない。そんなに多くのことは抱えられない。いくら大事なものを持っていても、もっと大事なものができれば、先に持っていたものは手放さなきゃいけない。荷物を持つにも順番があるんだ。欲張ったり無理すれば、それは大事なにもつじゃなく、お荷物になるだけ」
小さな理由(森浩美)★★★☆☆
株式会社双葉社 双葉文庫 第1刷 11年1月16日発行/13年11月13日読了
2チャンネルの泣ける話風になってきた。離婚した親と子、年老いた母と息子、夫を亡くした母と子、幸も不幸もいろいろ。どの話も絶望的にならずに救いがあるのがせめて。
スタイリッシュ・キッズ(鷺沢萠)★★★☆☆
株式会社河出書房新社 河出文庫 第11刷 96年12月5日発行/13年11月15日読了
これが時代のカッコよさ?学生で車を持ち遊んで暮らすような経済的に恵まれた環境で、大人になりたくない、このまま良い思い出として取って置きたい、というダダを捏ねる。経済環境がなせる典型的なモラトリウム人間ではないか。それが時代か。
家族の言い訳(森浩美)★★★☆☆
株式会社双葉社 双葉文庫 第28刷 13年3月7日発行/13年11月17日読了
家族が意識しないうちに壊れていく。家族関係の面倒くささ、厄介さ、脆さ。
ブラックボックス(篠田節子)★★★★☆
株式会社朝日新聞出版 第3刷 13年4月30日発行/13年11月19日読了
最初は低賃金、過酷労働の外国人研修制度のあり方に焦点が当てられる。その裏で着々と工業化した遺伝子組み換えでもなく、無農薬、無菌野菜の大量栽培技術が実用化しようとしていた。農業だけでは食べていけない現状、世界的な食糧難時代を控えこうした農業形態の変化は避けて通れない。ただこの計画はほんのちょっとしたミスであっけなく破綻する。方法論はともかく方向性は間違っていないと思うが、あまりにリスク管理が杜撰だった。
ほのかなひかり(森浩美)★★☆☆☆
株式会社角川書店 角川文庫 再販 12年10月25日発行/13年11月21日読了
他の森作品と少しイメージが異なる。「想い出バトン」少し臭いが、私も年末までVHSテープをDVDに焼き直し整理しよう。私にも来年結婚する娘がいる。ビデオを見て同じ思いになるかも。「じゃあまたな」辛い選択であるが、やらなければならないだろう。
家族の分け前(森浩美)★★★☆☆
株式会社双葉社 双葉文庫 第1刷 12年6月17日発行/13年11月22日読了
同じ著者の作品を続けて読む傾向がある。それで嫌になったこともあるし、ますますのめりこんだこともある。森浩美作品は徐々にトーンが下がってくる。人生の一齣ということで読めばそれなりに読むが、踏み込みが少しずつ浅く感じられてくるのはいかがしたことか。
★☆★先日このコーナーをよくみるというハナちゃんから「感想文じゃないんだよね」と言われて、個人的な読書メモとしていたが、もう少し真面目に書かなくちゃまずいかな、と思ったりして・・・
こころのつづき(森浩美)★★★☆☆
株式会社角川書店 角川文庫 初版 12年12月25日発行/13年11月24日読了
少なくても他人よりよくわかっているはずの家族。しかし、老い、病、介護、離婚、貧困と様々な環境が取り巻く。家族だからこそ骨肉の争いもある。家族と真面目に話をし、理解を深めることが、考えればいかに難しいことか。
十三回忌(小島正樹)★☆☆☆☆
株式会社双葉社 双葉文庫 第1刷 13年7月14日発行/13年11月27日読了
犯人は関係者だと分かっているのに十三回忌まで何の進展もなく、素人探偵が次々を疑問を解く。連続殺人を行う動機も弱いし、方法も場当たり的か、非現実的な偶発性の高いもので、緊張感も謎解き興味もなく途中で投げ出したくなった。幕間のミスリードも些かやり過ぎで興ざめ。