小説の木々17年08月
公園の銀杏の葉は、最初に来た頃は緑色をしていた。それからしだいに黄いろく、そして鮮やかな黄金色に染まり、まもなく地上へ落ちた葉が目立つようになる。雪が訪れて落葉を覆い隠し、黒い枝ばかりの林を際立たせるまでそれほど時間はかからなかった。窓の外の景色を眺め終わるころ、部屋はガスストーブの火で暖まった。(「夏の情婦(二十歳)」佐藤正午)
「かくれみの」の読書歴
蔵書を整理した。中学校の頃から読書を始め、最初に読んだ文庫本は伊藤左千夫の「野菊の墓」だったと記憶している。確かS.Oさんから借りたものではなかったか。今から思えば、本を貸してくれたことは実は告白だったか?学生の頃は電車通学で文庫本を読んでいたが、例外なく太宰治、芥川龍之介、志賀直哉、夏目漱石あたりから始め、三島由紀夫、福永武彦、立原正秋等へといった。借りて読むのは好きではなくほとんど購入していた。三浦哲郎の「忍ぶ川」はいつごろ読んだのだろうか。しかし、家でボヤをだし、この時代の蔵書は水浸しで全部捨てた。会社に入ってからは読書の習慣がしばらく絶えて電車の中ではビックコミックを愛読していた。いつの頃からか再び読み始めているが、多少金銭的余裕もできてハードカバーも購入し始めた。気に入った本があると同じ著者物を続けて読む傾向もある。当然ながらいつの間にか本が山積みになり始めた。でも捨てきれないでいる。(本棚左下の家マークをクリックするとマイ本棚へ)
満月の泥枕(道尾秀介) ★☆☆☆☆
毎日新聞社版 第1刷 17年06月15日発行/17年08月09日読了
喜劇風なのはすぐ分かるが、こうも全体にドタバタ劇になるとは予想もしなかった。ここまでドタバタ劇にする必要があったのか。岐阜の鉱山博物館にしても何故直截関係のない人物までぞろぞろ着いていくのか。ヤクザに殺されそうになってもその緊迫感もまったくなく。途中で読み止めたくなった。
検察側の罪人(上)(雫井脩介) ★★★☆☆
株式会社文藝春秋 文春文庫 第1刷 17年02月10日発行/17年08月21日読了
いかに止むに止まれぬとはいえ、ここまでやっては。証拠捏造さえやばいのに、冷静な検事とは思えぬ、この判断、行動は自己の破滅だけではなく検察の正義、権威を根底から傷つける。 狂ったかとしか思えない。
検察側の罪人(下)(雫井脩介)★★★★☆
株式会社文藝春秋 文春文庫 第1刷 17年02月10日発行/17年08月28日読了
法の遂行を正義と言うなら、最上の行動は不正義である。しかし、法で裁けぬ悪はどうすればいいのか。これはすでに神の世界であり、本音と建前の世界で、最上は神の判断をしようとした。何が正しく、何が正しくないのか、理不尽さを含みつつも、法を世界を進むしかないのではないか。