小説の木々18年03月

ふと、枝先から赤く染まり始めたイロハモミジに気づき、足を止める。飼い犬を優しく撫でるような手つきで、そっと遊歩道に差し出されていた枝葉に触れた。道沿いのベンチに座っていた僕も、誘われるように木々を見上げる。オープンカフェの屋根のようにせり出した枝。暖かな色の染まった葉が重なり合い、画家のパレットのように多彩な優しい色を作っていた。その隙間を縫って降り注ぐ陽光も当たり前のように優しい。(「雪には雪のなりたい白さがある/メタセコイヤを探してください」瀬那和章)

「かくれみの」の読書歴

蔵書を整理した。中学校の頃から読書を始め、最初に読んだ文庫本は伊藤左千夫の「野菊の墓」だったと記憶している。確かS.Oさんから借りたものではなかったか。今から思えば、本を貸してくれたことは実は告白だったか?学生の頃は電車通学で文庫本を読んでいたが、例外なく太宰治、芥川龍之介、志賀直哉、夏目漱石あたりから始め、三島由紀夫、福永武彦、立原正秋等へといった。借りて読むのは好きではなくほとんど購入していた。三浦哲郎の「忍ぶ川」はいつごろ読んだのだろうか。しかし、家でボヤをだし、この時代の蔵書は水浸しで全部捨てた。会社に入ってからは読書の習慣がしばらく絶えて電車の中ではビックコミックを愛読していた。いつの頃からか再び読み始めているが、多少金銭的余裕もできてハードカバーも購入し始めた。気に入った本があると同じ著者物を続けて読む傾向もある。当然ながらいつの間にか本が山積みになり始めた。でも捨てきれないでいる。(本棚左下の家マークをクリックするとマイ本棚へ)

かがみの孤城(辻村深月)★★★★☆

株式会社ポプラ社 第7版 18年01月11日発行/18年03月02日読了

鏡を抜ける話はかってもあった。童話を下敷きにパラレルワールドも出てきておもちゃ箱的だが、巧妙な伏線が張られていた。不登校がテーマだが、何よりストーリーテラーとしての面白さが存分に発揮されている。エピローグではこう来るかと、完結する。

銀河鉄道の父(門井慶喜)★★★★☆

株式会社講談社 第5版 18年01月24日発行/18年03月13日読了

五人兄弟の長男である宮沢賢治は実はどうしようもない男。しかし、妹のトシが詩、童話作家の才能があることを分かっていた。そんな賢治に対して、父は涙ぐましく限りない愛情を注ぐ。

優しい死神の飼い方(知念実希人)★★☆☆☆

株式会社光文社 光文社文庫 第14版 18年01月25日発行/18年03月24日読了

最初から最後までトントン拍子にうまく行き、すべてに安直な感じを受け、死神どころか天使になって、物語的な展開もなく、最後はドタバタ劇。犬の身体に閉じこめられた死神は、もう少し死神らしく感情移入などせずに実直、冷徹に現実を見据えていいのではないか。

盤上の向日葵(柚木裕子)★★★★☆

株式会社中央公論社 第10版 18年02月28日発行/18年03月31日読了

賭け将棋の対局の緊張感、ヒリヒリ感が伝わってくるようだった。何故名駒が遺体と一緒に埋められていたか、二人の刑事はこれを追っていく。一人の薄幸な少年が重なっていく。後半になると章は短くなっていき次々と場面が入れ替わり、緊張感が増す効果を出している。