小説の木々18年04月

ふと、枝先から赤く染まり始めたイロハモミジに気づき、足を止める。飼い犬を優しく撫でるような手つきで、そっと遊歩道に差し出されていた枝葉に触れた。道沿いのベンチに座っていた僕も、誘われるように木々を見上げる。オープンカフェの屋根のようにせり出した枝。暖かな色の染まった葉が重なり合い、画家のパレットのように多彩な優しい色を作っていた。その隙間を縫って降り注ぐ陽光も当たり前のように優しい。(「雪には雪のなりたい白さがある/メタセコイヤを探してください」瀬那和章)

「かくれみの」の読書歴

蔵書を整理した。中学校の頃から読書を始め、最初に読んだ文庫本は伊藤左千夫の「野菊の墓」だったと記憶している。確かS.Oさんから借りたものではなかったか。今から思えば、本を貸してくれたことは実は告白だったか?学生の頃は電車通学で文庫本を読んでいたが、例外なく太宰治、芥川龍之介、志賀直哉、夏目漱石あたりから始め、三島由紀夫、福永武彦、立原正秋等へといった。借りて読むのは好きではなくほとんど購入していた。三浦哲郎の「忍ぶ川」はいつごろ読んだのだろうか。しかし、家でボヤをだし、この時代の蔵書は水浸しで全部捨てた。会社に入ってからは読書の習慣がしばらく絶えて電車の中ではビックコミックを愛読していた。いつの頃からか再び読み始めているが、多少金銭的余裕もできてハードカバーも購入し始めた。気に入った本があると同じ著者物を続けて読む傾向もある。当然ながらいつの間にか本が山積みになり始めた。でも捨てきれないでいる。(本棚左下の家マークをクリックするとマイ本棚へ)

朽ちないサクラ(柚月裕子)★★★☆☆

株式会社徳間書店 徳間文庫 初版 18年03月15日発行/18年04月06日読了

刑事警察は起こった犯罪を、公安警察はこれから起こる犯罪を追い、双方協力せず、公安の闇がある。 ストーカー事件に端を発し、真実を秘匿するため公安が仕掛け刑事をミスリードし事は一件落着する。たった一人その仕組みを気付いたが、なにもできない。この理不尽な終りは消化不良の余韻を残す。

青くて痛くて脆い(住野よる)★★★☆☆

株式会社KADOKAWA 初版 18年03月02日発行/18年04月15日読了

たいした山場もなく、途中投げ出したくなった。就活支援が悪いわけではないが、良くはないが個人情報漏洩はたまたまのこと。片や壊すにしても正面からではなく卑怯な方法。所詮二人の間の相互期待と相互挫折だけ。仰々しく青春小説というほどでもない。

株式会社TOブックス TO文庫 第1刷 18年04月02日発行/18年04月23日読了

「諦めてもいいんだよ」治る見込みのない患者への辛い言葉である。桐子の出自が明らかになり、桐子の考え方、人となりが見えてくる。

株式会社TOブックス TO文庫 第1刷 18年04月02日発行/18年04月26日読了

前作では「正義の福原」対「死神の桐子」という構図であったが、ここへきてじわっと桐子の存在感が出てきた。桐子に、福原に、そして欣一郎に絵梨がいた。