小説の木々18年05月

ふと、枝先から赤く染まり始めたイロハモミジに気づき、足を止める。飼い犬を優しく撫でるような手つきで、そっと遊歩道に差し出されていた枝葉に触れた。道沿いのベンチに座っていた僕も、誘われるように木々を見上げる。オープンカフェの屋根のようにせり出した枝。暖かな色の染まった葉が重なり合い、画家のパレットのように多彩な優しい色を作っていた。その隙間を縫って降り注ぐ陽光も当たり前のように優しい。(「雪には雪のなりたい白さがある/メタセコイヤを探してください」瀬那和章)

「かくれみの」の読書歴

蔵書を整理した。中学校の頃から読書を始め、最初に読んだ文庫本は伊藤左千夫の「野菊の墓」だったと記憶している。確かS.Oさんから借りたものではなかったか。今から思えば、本を貸してくれたことは実は告白だったか?学生の頃は電車通学で文庫本を読んでいたが、例外なく太宰治、芥川龍之介、志賀直哉、夏目漱石あたりから始め、三島由紀夫、福永武彦、立原正秋等へといった。借りて読むのは好きではなくほとんど購入していた。三浦哲郎の「忍ぶ川」はいつごろ読んだのだろうか。しかし、家でボヤをだし、この時代の蔵書は水浸しで全部捨てた。会社に入ってからは読書の習慣がしばらく絶えて電車の中ではビックコミックを愛読していた。いつの頃からか再び読み始めているが、多少金銭的余裕もできてハードカバーも購入し始めた。気に入った本があると同じ著者物を続けて読む傾向もある。当然ながらいつの間にか本が山積みになり始めた。でも捨てきれないでいる。(本棚左下の家マークをクリックするとマイ本棚へ)

家族シアター(辻村深月)★★★★☆

株式会社講談社 講談社文庫 第1刷 18年04月13日発行/18年05月10日読了

親子が、姉妹が、家族故の微妙な距離感で揺れ動く。時にはハラハラしながら、時には歯がゆい思いを感じ、いつの間にか引き込まれた。

田園発港行き自転車(上)(宮本輝)★★★☆☆

株式会社集英社 集英社文庫 第1刷 18年01月25日発行/18年05月24日読了

九州でゴルフをしている男が富山の滑川駅で急死する。初めからミステリーじみているが、裏には女がいるだろうと推察できる。そしてこの遺児を中心に、かたくなに黙していた真相が徐々に洩れそうになる危なっかしさを孕みつつ、周りの人達が動いていく。