小説の木々19年07月
特に佳子は庭の東側にある柘榴の木がお気に入りで、庭師を頼むことなく自ら鋸で不要な枝を落とし、毛虫を焼き、丁寧に世話をしていた。毎年秋にはご近所にお裾分けしていたても余るほど、たくさんの実を実らせた。私は柘榴は酸っぱいばかりでさほど美味しいとは思わなかったし、ぎっしりと小さな実が詰まった様子が苦手で、ほとんど口にすることがなかった。しかし佳子は丁寧に小さな実を外し、ガラスの器に盛って種ごと食べるのが好きだった。(「夫の骨」矢樹純)
「かくれみの」の読書歴
蔵書を整理した。中学校の頃から読書を始め、最初に読んだ文庫本は伊藤左千夫の「野菊の墓」だったと記憶している。確かS.Oさんから借りたものではなかったか。今から思えば、本を貸してくれたことは実は告白だったか?学生の頃は電車通学で文庫本を読んでいたが、例外なく太宰治、芥川龍之介、志賀直哉、夏目漱石あたりから始め、三島由紀夫、福永武彦、立原正秋等へといった。借りて読むのは好きではなくほとんど購入していた。三浦哲郎の「忍ぶ川」はいつごろ読んだのだろうか。しかし、家でボヤをだし、この時代の蔵書は水浸しで全部捨てた。会社に入ってからは読書の習慣がしばらく絶えて電車の中ではビックコミックを愛読していた。いつの頃からか再び読み始めているが、多少金銭的余裕もできてハードカバーも購入し始めた。気に入った本があると同じ著者物を続けて読む傾向もある。当然ながらいつの間にか本が山積みになり始めた。でも捨てきれないでいる。(本棚左下の家マークをクリックするとマイ本棚へ)
旧友再会(重松清)★★★☆☆
株式会社講談社 第1刷 19年06月24日発行/19年07月06日読了
いつものトーン、切ないトーンの物語である。介護、廃退、離婚、定年・・・答えもない。切実になるのを避けているのか、どうも第三者視線で、切ないところを手で転がしているようで、他人事のように感じが否めない。
夫の骨(矢樹純)★★★★☆
株式会社祥伝社 祥伝社文庫 初版第1刷 19年04月20日発行/19年07月13日読了
短編集だが、各篇とも最後に思わぬ逆転がある。帯にもあったが「うーん、そう来るか」と思わせ、なかなか面白い。考えようによっては、普段見えない人間の裏側が最後に透けて見えるような感じもする。恐怖さえ覚える。
かけら(青山七恵)★★★☆☆
株式会社新潮社 新潮文庫 第1刷 12年07月01日発行/19年07月19日読了
父娘、恋人、夫婦、親しい筈の二人の間にあるどこかしっくりしない、もぞもぞするような違和感。お互い何となく感じるこの感触がじわりと出てくる。「時間が過ぎていくことを知っている。過去のある時点を振り返りながら、今の自分がそこからすでに距離を隔ててしまったのと同じく、この先の生活を営んでいく長い時間が横たわっていることを、わかっている。」
蟻の菜園(柚月裕子)★★★☆☆
株式会社KADOKAWA 角川文庫 初版 19年06月25日発行/19年07月30日読了
何度も繰り返される虐待、子供を持つ資格もない親が多すぎる。子供には防ぐ手段はない。他人事の言い方だが、やはり救う手立てが必要である。親権を盾に介入を許さない親には、強制力が必要。姉と妹の共依存は唯一の救いだったが、救いの道ではなかった。