小説の木々19年08月
特に佳子は庭の東側にある柘榴の木がお気に入りで、庭師を頼むことなく自ら鋸で不要な枝を落とし、毛虫を焼き、丁寧に世話をしていた。毎年秋にはご近所にお裾分けしていたても余るほど、たくさんの実を実らせた。私は柘榴は酸っぱいばかりでさほど美味しいとは思わなかったし、ぎっしりと小さな実が詰まった様子が苦手で、ほとんど口にすることがなかった。しかし佳子は丁寧に小さな実を外し、ガラスの器に盛って種ごと食べるのが好きだった。(「夫の骨」矢樹純)
「かくれみの」の読書歴
蔵書を整理した。中学校の頃から読書を始め、最初に読んだ文庫本は伊藤左千夫の「野菊の墓」だったと記憶している。確かS.Oさんから借りたものではなかったか。今から思えば、本を貸してくれたことは実は告白だったか?学生の頃は電車通学で文庫本を読んでいたが、例外なく太宰治、芥川龍之介、志賀直哉、夏目漱石あたりから始め、三島由紀夫、福永武彦、立原正秋等へといった。借りて読むのは好きではなくほとんど購入していた。三浦哲郎の「忍ぶ川」はいつごろ読んだのだろうか。しかし、家でボヤをだし、この時代の蔵書は水浸しで全部捨てた。会社に入ってからは読書の習慣がしばらく絶えて電車の中ではビックコミックを愛読していた。いつの頃からか再び読み始めているが、多少金銭的余裕もできてハードカバーも購入し始めた。気に入った本があると同じ著者物を続けて読む傾向もある。当然ながらいつの間にか本が山積みになり始めた。でも捨てきれないでいる。(本棚左下の家マークをクリックするとマイ本棚へ)
緋の河(桜木紫乃)★★★☆☆
株式会社新潮社 第1刷 19年06月25日発行/19年08月22日読了
この系統は個人的には趣味ではないが、小説として読み進めた。カルーセル麻紀がモデルというが、最近の状況であれば受け入れる空気があるが、当時の世界を考えれば反発しかなかっただろう。しかし、秀男と言う少年がそんな世界の中で、自己の意思を貫き逞しく成長していく。お盆に姉とともに帰京した家の空気が秀逸である。
ラストナイト(薬丸岳)★★★★☆
株式会社KADOKAWA 角川文庫 初版 19年08月25日発行/19年08月26日読了
再読、文庫本で購入したが数ページ読むと「アッ、読んだことがある」と気付く。まあ、いいかと再読する。各章にそれぞれ重なる箇所があり、ページを戻しながら、この構成は新鮮である。人間は復讐のためにここまで苛酷に生きられるか。 疑問は400万円もの金をどこで手に入れたか?