小説の樹々20年05月

校庭のフェンスに沿って夾竹桃が植わっている。桃色の花が満開だ。思わず目を逸らした。夾竹桃の花は苦手だ。理由は二つある。一つ目は、真夏に咲く桃色の花が暑苦しくて押しつけがましく感じること。そして、二つ目は毒があるからだ。それを教えてくれたのは父だ。この前、父と散歩していたときのことだ。ふいに父が夾竹桃を指さした。(「銀花の蔵」遠田潤子)

「かくれみの」の読書歴

蔵書を整理した。中学校の頃から読書を始め、最初に読んだ文庫本は伊藤左千夫の「野菊の墓」だったと記憶している。確かS.Oさんから借りたものではなかったか。今から思えば、本を貸してくれたことは実は告白だったか?学生の頃は電車通学で文庫本を読んでいたが、例外なく太宰治、芥川龍之介、志賀直哉、夏目漱石あたりから始め、三島由紀夫、福永武彦、立原正秋等へといった。借りて読むのは好きではなくほとんど購入していた。三浦哲郎の「忍ぶ川」はいつごろ読んだのだろうか。しかし、家でボヤをだし、この時代の蔵書は水浸しで全部捨てた。会社に入ってからは読書の習慣がしばらく絶えて電車の中ではビックコミックを愛読していた。いつの頃からか再び読み始めているが、多少金銭的余裕もできてハードカバーも購入し始めた。気に入った本があると同じ著者物を続けて読む傾向もある。当然ながらいつの間にか本が山積みになり始めた。でも捨てきれないでいる。(本棚左下の家マークをクリックするとマイ本棚へ)

黙秘犯(翔田寛)★★★☆☆

株式会社KADOKAWA 初版 19年8月29日発行/20年05月10日読了

路上で殺人事件が発生し、目撃情報、指紋、アリバイともに一人の男が浮かび上がり、何ら抵抗することもなく逮捕された。しかし、完全黙秘を続ける。同じころ発生した婦女暴行、溺死事故との関連が徐々に出てくる。あれよあれよという前に、次々と有力な証言、目撃情報が都合よく出てくる。ストーリの展開上致し方ないかと思う。警察の尋問は手を曝け出し過ぎで、行き詰まる。途中のプラカラーの埋め込みが、最後にこれをひっくり返す展開が意表を突かれた。

銀花の蔵(遠田潤子)★★★★☆

株式会社新潮社 初版 20年04月25日発行/20年05月16日読了

現実的かどうかはこの際置いておいて、座敷童はでてくるし、血の繋がっていない者同士の家族構成で、どこかおとぎ話のような気がした。血縁関係のない家族が信頼しあい労りあいで、ハッピーエンドで終わるし、読み終えて本を閉じたとき、なんとはなしにほっとした自分がいた。

暴虎の牙(柚月裕子)★★★☆☆

株式会社KADOKAWA 第3版 20年04月30日発行/20年05月31日読了

狂暴な男であるが、相手はヤクザ。真っ向からヤクザと警察を相手に、やりたいようにやる。しかし、所詮素人集団、ヤクザの非情さはない。命を救うため、友人が密告し、暴対が逮捕する。20年の刑を終えても、裏切りへの気持ちは変わらなかった。大上が死んだことで大きく変わるかと思ったが、大上の死の説明はない。うる覚えになった第一編「孤狼の血」を再読しなくてはならない。