小説の樹々20年08月
夏の終わりの風が、桜の枝を揺らす。頭上の葉のざわめきが、子供たちの歓声を耳からつかの間遠ざける。夏が行く。もう何度と数えることはない。あと何度と思いを馳せることもない。さすがに私は・・・私は年を取りすぎた。なあ、お前はどうだ?寄りかかった桜の木を下から見上げた。桜は応えなかった。ただもう一度、枝葉がざわめいた。見上げた姿勢のまま目を閉じた。桜のざわめきがやみ、耳に子供たちの歓声が戻る。指導をするコーチたちの声も聞こえる。それを見守る親たちの声も聞こえる。ふと気配を感じて目を開けると、いつの間にか隣にいた。私は桜の木から体を離した。(「Good Old Boys」本多孝好)
「かくれみの」の読書歴
蔵書を整理した。中学校の頃から読書を始め、最初に読んだ文庫本は伊藤左千夫の「野菊の墓」だったと記憶している。確かS.Oさんから借りたものではなかったか。今から思えば、本を貸してくれたことは実は告白だったか?学生の頃は電車通学で文庫本を読んでいたが、例外なく太宰治、芥川龍之介、志賀直哉、夏目漱石あたりから始め、三島由紀夫、福永武彦、立原正秋等へといった。借りて読むのは好きではなくほとんど購入していた。三浦哲郎の「忍ぶ川」はいつごろ読んだのだろうか。しかし、家でボヤをだし、この時代の蔵書は水浸しで全部捨てた。会社に入ってからは読書の習慣がしばらく絶えて電車の中ではビックコミックを愛読していた。いつの頃からか再び読み始めているが、多少金銭的余裕もできてハードカバーも購入し始めた。気に入った本があると同じ著者物を続けて読む傾向もある。当然ながらいつの間にか本が山積みになり始めた。でも捨てきれないでいる。(本棚左下の家マークをクリックするとマイ本棚へ)
正体(染井為人)★★★☆☆
株式会社光文社 初版第1刷 20年1月30日発行/20年08月05日読了
逃亡犯の切羽詰まった緊迫感は覗える。警察の杜撰さはこの際物語の必要条件だなので、深くは詮索しない。とにかく冤罪を仕立て上げられて、脱走した死刑囚が、身の潔白を晴らすために目撃者に接近する。状況証拠とはいえ、とにかく悪い条件が重なっている。
ディア・ペイシェント(南杏子)★★★☆☆
株式会社幻冬舎 幻冬舎文庫 初版 20年1月25日発行/20年08月07日読了
ちょうどNHKドラマ(貫地谷しほり主演)で放送していた。 ドキュメンタリータッチではなくサスペンスドラマ。患者を患者様と呼び、経営に躍起になる病院とモンスターペイシェントに悩まされる新任の女医。サスペンスンしてはネタ落ちが随分とあっさりしすぎている。「いのちの停車場」も吉永小百合で映画化されるとか。
看取りの医者(平野国実)★★★☆☆
株式会社小学館 小学館文庫 第9刷 19年1月14日発行/20年08月17日読了
1951年在宅死82.5%、院内死11.7%だが、2010年在宅死12.6%、院内死80.3%。現代の核家族化が、家庭から死を遠ざけ、死から逃避した。本書は「在宅死」を勧める。しかし、在宅ケア、在宅介護が必須となり、これが難関である。人は死に場所を求めている。