小説の樹々21年11月

夏の終わりの夜は蒸し暑くて、どこからか花火の匂いがした。空を仰ぐと百日紅の赤が夜目に鮮やかに映る。その向こうには小さな星が幾つか瞬いていて、明日も晴れだと言っている。酔った勢いで美晴の手を掴み、子どものようにぶんぶん振って歩く。鼻歌を歌うと美晴が笑ったから、私も笑った。他愛ない夏の一日だった。(「52ヘルツのクジラたち」町田そのこ)

「かくれみの」の読書歴

蔵書を整理した。中学校の頃から読書を始め、最初に読んだ文庫本は伊藤左千夫の「野菊の墓」だったと記憶している。確かS.Oさんから借りたものではなかったか。今から思えば、本を貸してくれたことは実は告白だったか?学生の頃は電車通学で文庫本を読んでいたが、例外なく太宰治、芥川龍之介、志賀直哉、夏目漱石あたりから始め、三島由紀夫、福永武彦、立原正秋等へといった。借りて読むのは好きではなくほとんど購入していた。三浦哲郎の「忍ぶ川」はいつごろ読んだのだろうか。しかし、家でボヤをだし、この時代の蔵書は水浸しで全部捨てた。会社に入ってからは読書の習慣がしばらく絶えて電車の中ではビックコミックを愛読していた。いつの頃からか再び読み始めているが、多少金銭的余裕もできてハードカバーも購入し始めた。気に入った本があると同じ著者物を続けて読む傾向もある。当然ながらいつの間にか本が山積みになり始めた。でも捨てきれないでいる。(本棚左下の家マークをクリックするとマイ本棚へ)

ブルースRed(桜木志乃)★★★☆☆/ISBN978-4-16-391433-6

株式会社文藝春秋 第1刷 21年9月25日発行/21年11月01日読了

いつもの暗い雲の下の釧路、父を殺された娘のアウトローの世界である。ただ、自分に満足していない、何がしたいのかもない。唯一父の忘れ形見を成長させ赤い絨毯を歩かせること。それを終えたら消える。瀬戸内海の孤島に住む世界には何の希望も要望もない。このまま静かに死ぬのだろうと感じる。

老い蜂(櫛木理宇)★★★☆☆/ISBN978-4-488-02846-6

株式会社創元社 初版 21年9月24日発行/21年11月04日読了

いくら日本は治安がいいとはいえ、災難のような事件はある一定数発生する。単なる老人のストーキングと思えば、衝突事故のような偶発ではなく、最初から特定し狙われたもので、実は逆恨み、逆切れの復讐事件となれば回避するのも難しい。すべて自堕落な軽い気持ちから始まった。降って湧いたような災厄で痛ましい。

神様の罠(辻村深月他)★★★☆☆/ISBN978-4-16-791702-9

株式会社文藝春秋 文春文庫 第3刷 21年7月15日発行/21年11月15日読了

旅にはいつも本をリュックに入れていく。今回は短編集を選んだ。いつ、どこでも、途中でもいい紀行文辺りが一番いいのだが、今回は短編集を選んだ。あまり面白くなかった。「推理研VSパズル研」の出題パズルは何度も読み返した。「ロマンス詐欺」はあり得なくて笑う。

血の雫(相場英雄)★★★☆☆(再読)/ISBN978-4-344-43129-4

株式会社幻冬舎 幻冬舎文庫 初版 21年10月10日発行/21年11月24日読了

社会はドラマは興味ある分野だが、毎回理不尽でやるせない。SNSの匿名の悪意ある誹謗中傷、非科学的な固執による風評。ゼロにはならないだろうが、取り締まりや意識改善によりなくしたい。子どもには是非こんな気持ちを抱かせたくない。